2016年総活 タイの新潮流

AECがもたらす期待に
備えるニッポンの戦士たち

日本政府観光局(JNTO)によれば、15年のタイ人の訪日人数は79万6700人(前年比21・2%増)に飛躍。16年は、「目指せ100万人」の大号令のもとスタートした。タイ人の日本旅行は特別なことではなく、リピーターが増えたことで、訪日需要も変化しているという。JTB(THAILAND)の坂田和剛社長は「商品企画も郷土・文化、季節ごとの祭事を体験できるような企画を増やしています」とニーズの細分化を語る。
一方で、タイ人の訪日需要増は経済成長(所得増)の結果であり、発展を支えたのが日系を中心とした外資誘致による産業集積。ご存知の通り、タイには多くの、日系企業が進出し、たくさんの日本人が家族とともに住み、自ずと日本人気質のサービスは増え続けている。前述の旅行業では、個人旅行が増えるなか、タイでは“家族と安心して行けるツアー”が選ばれている。「駐在中に家族で一度は行きたいとモルディブやアンコールワット、プーケットなどの定番の旅先の人気も衰えません」(H.I.S. TOURS中村謙志MD)。

外食だけじゃない
ニッポンのBtoC

他にも、「お~いお茶」で親しまれる伊藤園は、日本同様にタイでも高まる健康志向を追い風に販売戦略を進め、日本人の食卓から切っても切れない食文化「味噌汁」ではマルコメが賄う。さらに、熱帯特有の害虫駆除で安心ブランド「フマキラー」も進出済みで、積水化学は、高温多湿でも、ホコリやダニ、カビの発生を防ぐフロア畳を展開。極めつけは、鉄道沿線で住宅供給などの都市開発を得意とする東京急行電鉄(現地法人サハ東急)が、海外における「日本品質の街づくり」に乗り出している。
一昔前は、製造業と飲食業が中心だった日系企業進出だが、新たな時代を迎えているようだ。
日系大手シンクタンク野村総合研究所(NRI)の岡崎啓一MDはこう語る。「製造業では、可能性を残しつつも、ある程度成熟し、タイは景気の踊り場を迎えました。近い将来、有望なのが脆弱分野であった流通業でしょう」。期待の先陣を切るのが“マツキヨ”こと日本のドラッグストア業界の雄マツモトキヨシの存在だ。15年10月の1号店のオープン後、パートナーであるセントラルグループの後押し(店舗)もあってから、1年で8店舗を開いた。今後の流通業の多店舗展開を支えるのが、モノを運ぶ物流業の存在だろう。
同業界にとって、16年はまさに新時代の幕開けだった。

百花繚乱
物流大転換期

15年12月31日、ASEAN経済共同体(AEC)が発足。域内人口6億人、GDP(国内総生産)2兆ドル以上の巨大経済圏が誕生した。経済統合によるボーダレス化は域内クロスボーダー物流の活発化を期待させる一方で、既存のタイと世界(日本含む)を結ぶ物流は、日数短縮や定温輸送など、多種多様なサービスが揃い、まさに花盛りだ。
業界におけるビッグニュースは、日立物流と佐川急便の持ち株会社SGホールディングスの資本業務提携後に打ち出された、タイ〜ベトナム間(約1500㎞)のクロスボーダー混載輸送サービスの開始だろう。同路線は、バンコクからラオスのサワンナケート(積み替えポイント)を経由し、ベトナム中部のダナンから北へ向かい、ベトナムの首都ハノイを結ぶもので、ASEAN域内のクロスボーダー輸送でも、需要増が見込まれるルートだ。
それもそのはず、前出の岡崎MDが、「タイ+1という枠組みの中で、本気でタイを中心としたビジネスモデルや経営システムを作り上げる検討が必要です」と話す通り、これまでタイの製造業は、土地と比較的安価な労働力、整備されたインフラ基盤の提供で発展してきた。ところが、タイでは少子高齢化が進み、労働力が不足。現状は陸続きの周辺国からの単純労働者の流動を受け入れ支えられているが、AECの発足で、周辺国が成長すれば、労働者は自国へと戻る。つまり、製造業においては、隣国へ単純労働分野を移管する分業を検討している企業があり、その筆頭国=+1がベトナムだと言われている。日立と佐川の戦略がそうであるように、同ルートでは単独含め多くの日系物流企業がサービスを拡充する。

AECは起爆剤
足元の戦略は確実に

とはいえ、現状は隣国の成長スピードに見合っただけの物量で、タイ国内及び日本や北米向け輸送に比べればマーケットは小さいという。インタビューでは“K” LINE LOGISTICS(THAILAND)の髙橋正和MDが「前身(タイは、川崎航空サービス)の得意分野であった航空貨物の輸出入(6割)が最も堅調です」と語ると、近鉄エクスプレス(タイランド)谷康行社長も「TPEB(トランス・パシフィック・イーストバンド)の拡大。太平洋側のアジア、北米向け航路(輸送)に力を注いでいます。グローバルを見据えると、太平洋地域を押さえることが非常に重要です」と多角的な視点で将来を見据えていた。
新潮流では、企業の事業展開を陰で支える金融、IT分野でも日系企業の強さを紹介してきた。新日鐵住金グループのシステムインテグレーター、新日鉄住金ソリューションズやシステムインテグレーション(SI)専業で、日本トップクラスのTISは、IT技術によって事業効率化を図り、金融関連企業は、企業が円滑な事業運営を進めるための資金調達やアドバイスといった形で、経済大国ニッポンの経験を広めていた。
16年を振り返り、10月13日にご逝去されたプミポン前国王陛下への敬意の念は尽きない。それと同時に、皇太子殿下がラマ10世に即位されたことで、まさに17年は新時代の幕開けとなるだろう。来年も、世界が注目するASEANの中心“タイ”で、舵を取るトップの顔を提供していきたい。

編集後記

16年は昨年末に発足したAECによる恩恵を最も早く享受する“物流業界”が話題をさらった。ご多分に漏れず、週刊WiSEでもAECの中でも注目される、陸続きでつながるタイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマー、ラオス5ヵ国+中国で形成する大メコン経済圏(GMS=Greater Mekong Subregion)の大動脈「GMS経済回廊」を取材し、お届けしてきた。表向きは、“AECは遅々として進む”とするトップたち。だが、近い将来の影響(AECによる恩恵)を予見した準備と、何が起きても揺るがない盤石な事業基盤の構築に余念はない。読み取れたのは、今年が新時代への“潮目”となる可能性の高さだった。タイの潮流が変わったのかは、来年の楽しみとしたい。(北)


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