日本政府観光局(JNTO)

使命はタイ人に訪日旅行を促すこと

バンコク事務所所長 伊東 和宏

《プロフィール》 1961年生まれ。京都府出身。1985年青山学院大学卒業、同年近畿日本ツーリスト入社。法人営業、海外駐在、海外商品企画等を経て、2004年日本政府観光局入局。受入対策・コンベンション・海外プロモーション等を経て、2013年JNTOバンコク事務所長に就任。現在に至る。
 

民間観光大使となり ニッポンを紹介してください

—訪日タイ人数の伸びが止まりませんね
2013年7月のビザ(査証)免除から、毎月過去最高記録の更新が続いています。タイ人の日本人気は収まることがないですね。

振り返ると、2011年に起きた日本での東日本大震災と、同年冬に発生したタイの洪水で、訪日需要は減少しました。その後、12年から徐々に回復傾向となり、その年のタイ人の年間訪日数は約26万人。13年には45万人を超え、14年の早い段階で50万人を達成し、年間で65万人と、わずか2年で倍以上の需要に成長しました。



—世界のなかでも、(JNTO)バンコク事務所が最も忙しいのでは
われわれの使命は、タイ人に訪日旅行を促すことです。タイ人がいかに日本へ旅行に行こうと考えるのか、旅行フェアやタイのマス媒体への広告出稿などを通して、タイ人が「日本へ旅行に行きたい」と思わせ、実際に日本でお金を落としてもらうことがミッションです。

また、バンコク事務所はフィリピン、ベトナムなども管轄しています。そのほとんどの訪日需要が増えています。すでに現状のスタッフではカバーしきれないほどです。今年度(4月)から、バンコク事務所の裁量権が拡大し、自由度が高まります。これにより、事業の執行スピードも増し、さらなる訪日需要の取り込みにプラスとなるでしょう。



—訪日需要増はいつまで続くと思いますか
ビザ免除後から1年が経っても落ちませんでした。むしろ、14年6月くらいからは、LCC(ローコストキャリア)の日本便就航が進み、さらなる飛躍の年となりました。

今年も5月からはエアアジアXがバンコク—札幌便を就航します。他社の日本便を飛ばす計画も、話題に上がります。訪日経験のあるタイ人からのヒアリングでは、一度行くと帰国後、すぐに「また行きたい」と思うのだそうです。個人旅行者も増え、JRが海外でしか購入できないフリーパスを販売するなど、訪日客の取り込みサービスも増えています。JRのパスは、有効期限が60日で、購入者は2ヵ月以内に、日本へ行かざるをえません。

最近は、航空券は取れても大阪や東京といった大都市のホテルで、予約が取れない現象が起こっています。



—一昔前は、訪日外国人といえば中国人の話題ばかりでした
タイ人と中国人では、同じ訪日旅行でも、感じが違います。中国人といえば「家電製品や高級ブランドを大量に買う」という豪快なイメージですが、タイ人の場合は、ドラッグストアでの日用雑貨やお菓子が人気です。

タイ人の傾向は、食がキーワード。タイ、とりわけバンコクには多くの日本食レストランがあり、タイ人にとっても、身近な食のひとつです。旅行者の多くは、「もっと美味しい日本食があるはず」と日本食を求めて旅行する人が多いようです。


北海道では、ある料理長が石狩鍋をタイ風にアレンジして出したところ、タイ人旅行客から怒られたという話があります。 また、あるタイ人は知人から聞いた京都の老舗のすき焼き店に行ったが、満員で入れず、そのまま帰国。悔しさから、1ヵ月後に再度、日本に渡ったという逸話もあるほど。日本には、日本食=和食というキラーコンテンツがあります。

さらに、タイ人の多くは、幼い時に「ドラえもん」といった日本のアニメを見て育ち、テレビで見た近代的で清潔な日本の街を、「ひと目みたい」と幼い時に抱いていることが大きいでしょう。



—リピーターの確保が重要ですね
日本の四季折々が見せる風景と気候、そして旬を食すことができる。これが、リピートさせる原動力だと思います。

最近では、ゴールデンルートと呼ばれる東京—富士山—京都・大阪に飽き足らない強者たちが、(JNTO)事務所を訪れ「この写真の場所に行きたい」や「このスイーツを食べたいので場所を教えてほしい」と求めるニーズも細分化され、問い合わせも多岐に渡ります。今後は、バンコクだけでなく、チェンマイといった地方都市でも“ニッポン”PRが必要となってくるでしょう。



—観光一筋だと聞きました
JNTOに入って、海外赴任は初ですが、以前のKNT(近畿日本ツーリスト)時代はニューヨーク駐在(2回)を経験しています。旅行代理店時代は、海外法人営業や海外商品企画に長く携わってきたので、主要な海外都市は訪れています。



—東南アジア(タイ)はどうですか
街、経済、人、すべてにおいて熱く、勢いを肌で感じられる国ですね。ご存知の通り、毎年、地方自治体の知事や市町村長がトップセールスにくるのも、そうした情報が日本にも伝わっているからでしょう。千客万来。事務所のスタッフが、「こんなに人がくるのは初めて」と驚いているほどです。

最後に、ワイズ読者にお願いです。ご自身がよく知るニッポン(ふるさとなど)を、民間観光大使になって身近なタイ人に伝えていただきたいと思います。


 

編集後記

対外向けに観光広報を行うJNTO。自ずと主戦場は海外だが、なかでもタイ・バンコクは、成果を肌で感じられるほど、訪日需要増が著しい。今年1月の訪日タイ人旅行者数は前年同月比64・9%増で、34ヵ月連続で各月の過去最高を更新。日本ブームにかげりは見えず、航空各社の日本―タイ路線は花盛り。バンコク事務所の舵を任される伊東氏は、大手旅行代理店出身であり、海外商品企画畑を歩んできた筋金入りのプロ。否応なしに次の一手に注目してしまう。(北川 宏)

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