タイ日清

V字回復、二桁成長の次はシェアNo.2

MD 深井 雅裕

《プロフィール》 1965年生まれ。神奈川県出身。1989年法政大学卒業、同年日清食品入社、低温事業部営業課、チルド食品事業部企画部、営業本部を経て、2012年タイ日清マネージングダイレクター。
 

「V字回復、二桁成長の次はシェアNo.2の座です」

―タイでの生産・販売体制はいかがでしょうか
 タイで生産・販売している商品は、セブンイレブン専用の商品を入れると、袋麺とカップ麺を含めて20種類くらいですね。

生産体制は、昨年、シラチャー工場を閉鎖し、ナワナコン工場が竣工し、生産を開始しています。



店頭で「カップヌードル」や「どん兵衛」を見かけませんが

 現地の味に合わせた商品ばかりですね。赴任当初、バンコクで見かける日本食レストランや日本語、日本文化の多さに驚き、「日本の商品でも成功するのでは?」と考えたことがあります。 それでも、結果的にはローカルに合わせることを選びました。現地スタッフに開発・研究を任せています。タイの味については口出しできません。



タイの事業戦略について教えてください

 「どんどん新商品を!」という戦略は採っていません。定番商品を市場で、時間をかけて浸透させる戦略を採っています。タイ人の気質といいますか、「自分の食べているものが一番美味しい」という思い入れが強く、味に対して保守的な人が多いようです。それに対する我々の手段は、出した定番商品を売れるまでどうするのか、つまりは、一商品をいかに太くさせるかが勝負どころです。



業績はいかがですか

 景気低迷で消費マインドも冷え込み、確かに購買力は落ちていると思います。タイの市場自体が拡大しない中で、攻勢に転じるのは厳しいですね。

とはいえ、タイ日清としては積極的な販売促進を続け、対前年同期比で二桁増となっています。ただ、タイの即席麺市場は、業界の“巨人”「タイ・プレジデント・フーズ」が販売する即席麺「ママー」が市場シェアの50%超を占めていますので、一筋縄ではいきません。時間をかけて実績(母数)を積み上げていくしかありません。



他業種含め、各社が軒並み業績を落とす中での二桁増は驚きです

 弊社のタイ進出は1994年ですが、その後、長年にわたってシェアを落とし続け、赴任した2011年には限りなくゼロに近かったんです。それが、前述のナワナコン工場が稼働し、販促活動に打って出たことで、1年でシェアを5%近く上昇させるV字回復を果たしました。 具体的には、それまで手掛けてこなかった、袋麺の販売を開始し、積極的にテレビCMやプロモーションを打ち出したことが功を奏したのだと思います。



勢いに乗じて一気にシェア上位を目指すわけですね

 そんなことは考えていません。タイのマーケットで「日清(NISSIN)」という知名度はまだまだ低い。タイでは、即席麺自体が「ママー」と呼ばれるほどですから。まずはシェア10%を通過点として、業界2番手には押し上げたいですね。チャレンジャーという立場は、やり甲斐がありますよ。



海外赴任は初めてと聞きました

 弊社グループ自体がグローバル展開に舵を切ったのがここ数年です。それに合わせて、若手の管理職を育てる「SAMURAI研修」という制度が立ち上がり一期生として受けました。研修の最終目的が海外拠点のトップを育てることだったので、1年間みっちり研修を受けた先に、海外赴任が待っていることは覚悟の上でした。



研修での経験はいかされていますか

 東南アジアのビジネスシーンでは、「日本では理解し難い、◯◯のようなことが起きるからね」と脅かされてきたので、そういったシーンに遭遇したときは、「なるほど、本当にあるのか」とおかげさまで、臨機応変な対応ができました。

実際に、トップとして商談・交渉・決定を下す中で、タイのビジネスパーソンのメンタルの強さとタフさを肌で感じましたよ。研修を受けていたからこそ、クリアできたのだと実感しています。



赴任して3年が経ちましたが

 皆さんが口を揃えて言うと思いますが生活面で苦労はないです。ゴルフはほとんどしませんので、休日は妻と2人で食べ歩きに出かけることが多いですね。食品メーカー勤務なので市場調査も兼ねています。仕事の面では、更地から新工場の稼働、袋麺の開発・生産、スタッフ教育も含め、“ゼロ”からの出発が多く、あっという間の3年間でした。



来期に向けて一言お願いします

 今年から、弊社グループは英国のサッカークラブ「マンチェスター・ユナイテッド(マンU)」とパートナーシップを結んでいます。ご存知のとおり、タイのサッカー熱は高く、特にマンUは人気があります。タイ日清としての販促に取り入れて行くので楽しみにしてください。


 

編集後記
「チキンラーメン」、「カップヌードル」、「どん兵衛」、日本人なら一度は食す即席麺を、世に広めた業界の雄「日清食品」。発展を続ける東南アジアの需要拡大は著しく、日系食品メーカーにとって有望市場だが、タイに関しては事情が違う。シェア半分を占めるローカル企業が君臨し、外資の進行を阻む。厳しい市場に赴任し、半ばゼロからの再スタートを切った深井氏は「挑戦しがいがある」と意気込み、結果、工場稼働1年で二桁増を果たす。“SAMURAI”研修は伊達じゃない。(北川 宏)

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