BOI ヒランヤー長官
2016年のタイの外資誘致はどうなる? タイ政府のキーパーソンに話を聞く!

日系企業の進出動向を左右する政府機関、タイ投資委員会(BOI)。そのトップで舵取りをするヒランヤー長官を直撃した。2015年は40年ぶりに直接投資がトップから陥落するなど日本には逆風が吹き、一方では進出目覚ましい中国の台頭も目立った。タイ政府機関の“重要人物”が、16年の投資について口を開いた。

 

ー2014年にゾーン制を廃止し、投資申請の数が減りました
タイは、これから産業の競争力を高めることに注力し始めます。ゾーン制では、新たな産業が生まれにくく、また新たな産業が増えていかなければ、タイの世界での競争力は上がりません。結果、申請件数は少なくなりましたが、一方で付加価値が上がってきています。高度な技術を持つ企業を誘致することが、現在のBOIの責務なのです。そのシフトチェンジをしなければ、タイが世界のマーケットで勝つことはできません。
そして、タイの人件費も高騰してきています。自ずと企業価値も高めていかなくてはいけないわけです。結果、製品の価値や価格が上がれば、国力もついていくでしょう。申請件数が減っても、それは予想内の範疇です。

 

ー日本の投資金額が下がってきたことに対して、どう思いますか?
ご存知の通り、タイでの日系企業の多くは自動車関連や電子部品です。BOIの新戦略では、今後高度な技術を持つ製造業に追加恩典を与えます。そのため日系企業の投資金額は減りました。
2014年の新恩典制度の直前、かなりの数の日系企業がBOIを申請したため、現在の数字は少ないように見えますが、よくよく見てみると相対的には、それほど減少していないことがわかるはずです。そして、R&D(研究開発)の企業数は非常に増えています。例えば、日本の大手自動車メーカーも研究所を作り始めました。さらに、国際地域統括本部(International Headquarters)や国際貿易センター(International Trading Company)を設立する日系企業も増えています。これらのプロジェクトの投資金額は少ないのですが、タイ経済に与える影響は大きいと確信しています。そのため投資金額自体はさほど気にしていません。高度な技術を持つ企業を、さらに60%ほど増やすことが現在の目標です。

 

ー今後、注力していきたい新施策はどんなものがありますか?
現在、タイだけではなく、世界中が不景気の問題に直面しています。民間企業の収益が、その国のGDPに直結することは間違いありません。今後、BOIはいくつかの景気刺激策を実施していきたいと考えています。例えば、日系企業の主である自動車・自動車部品・電子部品などについて、特定の10業種に特別な追加恩典を与える「スーパークラスター制度」を実施します。
前のゾーン制は地域別で、恩典を与えていました。しかし、バンコク近郊はすでに労働不足の問題が起き、業種によっては近隣住民の反対などもあって、なかなか円滑に企業活動を進められなかったところもあります。しかし、スーパークラスター制度ではそれらの問題を解決できると信じています。例えば、東部7県の「イースタン・シーボード・ゾーン」近くの港やコンテナターミナル、道路などのインフラは非常に整備され、自動車・自動車部品・電子部品の企業もたくさんありますので。
また、外資の誘致は、BOIの恩典だけでは足りないことも理解しています。そのため財務省は、タイ人でも外国人でも才能のある人に所得税免除の恩典を付与することを検討しています。ほかの東南アジアの国々と比べても、タイの労働環境や交通インフラは優れていると考えています。

 

ー昨年、経済担当のソムキット副首相が投資促進施策に関するセミナーで、外国人に永住権を与えるとも話しました
その恩典はスーパークラスター制度に含まれていますが、それらに該当する企業で働く、才能豊かな外国人には、タイでの暮らしをより向上させてもらいたいという意図があります。ただ、法律については内務省が担当なので、詳しくはそちらに問い合わせいただければと思います。

 

ー昨年、BOIのFDI(外国直接投資)ランキングで初めて日本は一時的に3位になり、中国が1位になりました
昨年はちょうど中国の太陽光発電やタイヤ関連などの大企業が、タイに投資し始めました。これらの投資金額は100億バーツ以上で、かなり大きな額です。一方、日系企業が主とする自動車・自動車部品・電子部品はあまり好況とは言えません。ただ、先ほども言った通り、2014年の数字も見ていただければ、日系企業の投資はあまり変わっていないことがわかります。
急に中国の投資額が上がった背景には、アメリカやEUの関税障壁があり、自国から輸出することが厳しくなったことが挙げられます。そのため、中国はタイなどの海外に投資し始めたというわけです。
ちなみに、日本と中国の製造業の得意分野は違うと認識しています。日系企業は、自動車・自動車部品・電子部品・エコロジー分野が突出しており、中国は農産加工業に注目しています。ただ、日本も農産加工業でのバイオテクノロジー分野が卓越しているとみています。

 

ー最近、BOIが認可した注目の企業はありますか
やはりデジタル関連やソフトウエア企業が増えてきました。これはタイだけではなく、世界中どこでも同じだと思います。ほかにもR&D、航空関連、船舶などのロジスティクス、発電所などのインフラ関連企業の申請も増えています。
デジタル企業は、スーパークラスター制度の対象となります。該当するエリアは、北部チェンマイ県と南部プーケット県です。デジタル関連が増えてくることが予想されるため、政府はネット回線の速度を向上させなければなりませんね。

 

ー最近では、人件費の問題も話題になっています。政府は国民のために最低賃金を上げたい、その一方で経営者にとっては厳しいのが現実です。BOIとしての対策はありますか?
現在、BOIも人件費の問題について話し合っていますが、その解決策のひとつとして、7ヵ年計画を打ち出しました。先ほど話した通り、BOIは高度な技術を求めており、それには省人化も含まれます。つまり、高度な技術が発達すれば、労働力が不要になるわけです。必要な人材は、能力のある人材だけ。スキルの高い人材を雇うには、コストがかかりますが、付加価値も高まり、大きな利益を生み出せると確信しています。省人化によって労働力は下がりますが、一方で人件費が上がり、所得も増えていくでしょう。
さらに、政府は単純労働が必要な企業に対して、国境近くに投資させることで、労働者が多いミャンマーとカンボジアからの人材を雇用できるようになるわけです。単純作業は、国境や周辺国に移転します。これは、決して周辺国と争うわけではなく、協力・提携していくことを意味しています。
現在、外資の誘致については、BOIだけではなく、各省庁でいろいろな施策を考えています。BOIの恩典だけでは足りないからです。政府も外国直接投資を誘致するために、さまざまな問題を解決するよう進めています。日本もタイについて改めて考えていただき、もっと投資をしてもらいたいですね。

 

ヒランヤー・スジナイ。

チュラロンコーン大学商業会計学部を卒業後、1996年タイ投資委員会(BOI)に入庁。事業・開発部長としてキャリアをスタートし、2002年BOI長官補佐、2015年BOI長官に就任

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