演じて生まれる“思いやり” タイで唯一の日本語劇団


1998年に創設された「劇団サザン天都」に水野さんが加わったのは
2003年。気づけば代表になるほどの存在に。入れ替わりの激しい
メンバーを支えながら、自らも舞台に立つ水野さんを訪ねました。

 

初めて演じる時、目の前に立ちはだかるのが“羞恥心”。そんな時、どうアドバイスするのかと水野さんに問うと、「まず劇団員と仲良くなることだ」と至極明快な答え。

「知らない人たちの前で何かをやるのが恥ずかしいなら、知っている人になっちゃえばいいんです。まずは、劇団員たちとどれだけ親しくなれるか。自己紹介やゲームを通してみんなが仲良くなるきっかけづくりを意識しています」。

練習を覗くと、その言葉どおり。子どもから大人まで、与えられたテーマをもとにアイディアを出し合って演技ともゲームとも言える即興劇を続けていました。難しく考えるのではなく、「ちょっとやってみようかな」。始まりは、そんな好奇心でいいと水野さんは笑います。

サザン天都を構成するのは、10名弱の大人の劇団員と、各公演時に行われるキッズオーディションで選ばれた子どもたち約25名。そして、サポートしてくれる保護者たち。音響、照明、衣装、メイク、撮影……裏で支える人たちがいてサザン天都の舞台が成り立っています。

12月のファミリーシアター、春のレストラン公演、6月の定期公演という年3回の公演が基本であり、練習期間はひとつの公演に対して3、4カ月。最初は手とり足とり教えていた子どもたちが、自分で考えて行動できるようになる姿が、見ていてうれしいのだそう。

本番が無事に終わった時は
いつも“奇跡”だと思っています

水野さんが初めて演じることに興味を持ったのは、中学の文化祭。みんなの前で演じたのが純粋に楽しかったのだと振り返ります。さらなるステップアップを目指し、高校時代には芸能プロダクションに所属。社会人になってからは友人3人で劇団を設立。自分たちで意見を出し合い、話を膨らませていく時間がとても新鮮だったと言います。「映像の世界は、演じる人と観る人が交わることなく一方通行ですよね。舞台は、お客さんの反応がすぐに分かり、演者もそれに反応する。お客さんと一緒に作り上げる、そんな“生”の世界に惹かれたんです」。

加えて、演劇の良さのひとつに“直接的なコミュニケーション”と“日本語への理解”を挙げます。携帯やパソコンを介してのコミュニケーションが増え続ける現代では、“文字としての言葉”は知っていても、“感情としての言葉”を知る機会はどんどん減っています。演じることは、誰かの人生を生きること。誰かの立場になって、その感情を理解すること。役と向き合うことで、相手を思いやる気持ちや相手を理解しようとする気持ちに幅が生まれるのだと水野さんは考えます。

「日本にはたくさんの劇団や舞台がありますが、タイでは稀少です。劇団に所属する子どもたちには、活動を通して正しい日本語を身につけるいい機会になってほしいなと思っています」。

そんな水野さんが、本番終了後に思い浮かべるのは“奇跡”という2文字。

「これまでも、本番の1週間前にキャストが盲腸で入院したり、主役の子どもが急きょ本帰国になったりという緊急事態があったんですが、みんなで乗り越えてきました。そんな感慨深さが、“奇跡”という言葉に変換されています」。そしてクタクタなはずなのに、「次も楽しみにしてる」というお客さんの言葉にすぐ次の公演のスイッチが入ると言い、そんなひたむきな想いが、サザン天都を支えているのです。

毎年12月〜1月に行われるファミリーシアターは大盛況。写真は2017年1月公演の「くるみ割り人形」

 


PROFILE
水野 宏美 Hiromi Mizuno
「劇団サザン天都」代表。1961年、茨城県出身。中学時代に文化祭で行った劇に参加し、演じることに興味を持つ。高校時代は芸能プロダクションに所属。99年に旦那さんの仕事がきっかけで来タイ。2003年にサザン天都に入団。影響を受けた劇団は「第七病棟」。14年から代表に。趣味はもちろん演劇。

 


劇団サザン天都

みんなが主役になれる場所! 気軽にご参加ください

小学1年生から大人まで所属。公演は毎年3回ほど開催。練習は週1〜2回、日本人会別館にて実施。劇団出身者には、日本やタイでタレント活動をしている人も。
[問い合わせ]
Tel:089-520-2657
E-Mail:gekidansazan@hotmail.com


編集部より
初めて演劇の練習を見ましたが、堂々とハツラツと声を発する姿がとてもかっこよく、またテーマひとつで幾通りもの人や動物、モノになり切ることができる想像力の豊かさに刺激をもらいました。12月の公演は、ぜひ私も観劇しに行きたいです(M)

取材・文 山形 美郷
 


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