固有犬種「バンゲーオ」と共に 世界へ挑むドッグブリーダー

「犬を飼いたい」という奥さんのひと言から始まった、吉田悠希さんのショー・ドッグブリーダーとしての生活。本格始動から数年で、ドッグショーのタイトルを次々と獲得してきた吉田さんが、ショーを通して伝えたいことは。

毛並み、骨格、筋肉、歯並び、歩き方など、「国際畜犬連盟(FCI)」の基準に則り、犬本来の美しさを競い合うドッグショー。吉田さんは5年前から、ほんの数分で勝負が決まる“戦いの場”に挑んできました。その現相棒として舞台に立つのが、タイの固有犬種・バンゲーオの「雷電(ライデン)」です。多くのタイ人が抱くという「バンゲーオ=凶暴」なイメージとは正反対。愛嬌溢れるその姿に惹かれ、周りにはいつも人が集まっています。

「バンゲーオは、ひと言で言うと秋田犬や柴犬に近く、飼い主に忠実。タイ人にとっては、すぐ吠えるなど凶暴なイメージが浸透していますが、僕は自身で育てたバンゲーオを通して、その可愛らしさをもっと多くの人に知ってほしい。賢く、愛らしい犬なんです」とその魅力を語ります。

奥さんの「犬を飼いたい」という要望に対し、「それなら、タイにしかいない犬を飼おう」とバンゲーオを選んだ吉田さん。その直後に引越した先でブリーダーと出逢い、現在の道に足を踏み入れたのだと笑います。以降、生活リズムは一変し、「特有の匂いを覚えさせたくない」とお酒もタバコも禁止。現在は、自身が運営する「バーン・ヨシダ・タイバンゲーオ」(ラチャブリー県)で、タイ人ブリーダーと共に30頭のバンゲーオを育成しています。


ショーの表彰式にて。「雷電はリボンをもらうと、いつも嬉しそうの表情をみせるんです」ろ吉田さん

バンゲーオを育てる唯一の日本人ブリーダーとして

吉田さんはショーに向け、通常のブリーディングと並行した独自の訓練を、生後1カ月から少しずつスタート。特に、多くの人と触れ合わせることを重視しているのだそう。「犬は、人間を体型や色、性別など系統立てて判断する傾向にあります。例えば、大柄な白人女性が自分を怖がらせるような動きをしたら、その後、同じような体型の人を怖がるようになってしまう。偏った認識にならないよう、幼い頃から外に出て、さまざまな国籍や体型、服装など幅広い人に慣れる訓練をしています。これが、毎回異なる審判に対峙するショーにも繋がるんです」。また会場の雰囲気に慣らすため、実際の場で録音した音を犬舎で流すなど、経験から導き出したルールを元に、吉田さんは24時間、犬中心の生活を送っています。

「バンゲーオを育てる日本人ブリーダーは、世界中で僕だけしかいません。始まりは偶然でしたが、バンゲーオに関わり、その歴史に自分の名前が刻まれる。それこそが名誉であり、意味があると思っています。そして誰もやっていない分、日本人が知るバンゲーオは、僕から発信されたものになる。海外大会でもそうですが、責任重大だと感じています」。

3年前から出場している世界選手権では、2年連続優勝。世界におけるバンゲーオの認知度はまだまだ低いそうですが、結果を残すことで、その存在を発信していきたいと決意を口にします。

同時に、ショー本来の目的である「純粋な血統を後世に残す」ことに対しても意識が変化。「美しさは、訓練や環境によって磨かれる場合もありますが、骨格や毛色といった部分は遺伝によるものが大きい。そう考えると、ショーは何世代にも渡るリレーでもあるんだなと気づきました。雷電は初代ですが、世代を超えて受け継がれる美しさ、“本物の血統”を証明していきたいと思います」。

勝てば共に喜び、負ければ共に悔しがる“戦友”雷電と、前例なき道を進む吉田さん。その歩みが、バンゲーオの歴史と重なっていきます。


PROFILE
吉田 悠希
Yuki Yoshida

1978年、大阪府生まれ。カメラマンとして活動し、2012年、タイへ移住。13年、タイ人の奥さんの言葉をきっかけにタイ固有犬種バンゲーオを飼い始める(人生で初めて犬を飼う)。14年、ブリーダーとして本格的に活動開始。数々のショーに参戦し、受賞歴多数。17・18年の世界選手権で優勝。趣味はお寺巡り。リフレッシュ方法は子犬の撮影。


バーン・ヨシダ・タイバンゲーオ
犬のことでお困りの方はお気軽にご相談ください

タイ西部・ラチャブリー県にある犬舎。タイ固有犬種のバンゲーオを専門にブリーディングを行い、ショーに出場しています。
[問い合わせ]
Address: 51/4 Moo7, Pakchong, Ban Chom Bung, Ratchaburi
Telephone: 062-552-6226(日本語)
Facebook: BAN YOSHIDA THAILAND


編集部より
ふわふわの毛を揺らし、愛くるしい瞳で迎えてくれた雷電(2歳5カ月)。凶暴というイメージとは縁遠く、その表情にはどこか吉田さんを思わせる穏やかさが。同行したカメラマンも、雷電にメロメロでした


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