全日本空輸(ANA)

もっと多くの人に“おもてなし”を

全日本空輸バンコク支店長 寺井 裕

《プロフィール》 1960年生まれ。島根県出身。86年東京外国語大学卒業。自動車メーカーを経て、88年全日本空輸(ANA)入社、14年ANAバンコク支店長。
 

「質とサービスの向上は至上命題。成田便が増やせれば、 もっと多くの人に“おもてなし”を味わってもらえます」

―タイ人の訪日需要の高まりはすごいですね  ご存知の通り、昨年の査証緩和措置(ビザ取得免除)の影響は大きいですが、それ以前からもタイ国内での日本ブームの高まりはありましたので、相乗効果だといっていいでしょう。おかげさまで、搭乗率も安定的に高い数値で推移しています。

特にビザ緩和時の昨年、7〜8月は二桁台で前年同期比を上回りました。昨年後半から今年前半にかけての政情不安がなければ、もっとよい結果となったと思います。



いずれ、日本―タイ路線の搭乗割合(日本発対タイ発)が逆転することもありえるのでは?

 そこまではありません。我々は日本の航空会社ですから、メインは日本ですよ。それでも3割近くはタイでの販売となっています。



在タイ日系企業増により貨物取り扱い量が増えていると聞きます

 現在、貨物便は週6便飛んでいます。中国を除けばアジアで1、2位を争う物量です。



バンコク支店として、好機に乗じたキャンペーンなどは行っていないのですか

 表だったキャンペーンはありません。ただ、品質およびサービス向上は、あらゆる面で高めているつもりです。

ひとつは、最新鋭機B787の投入です。現在はバンコク—羽田便の2便ですが、近い将来、成田路線も含め全便がそうなるでしょう。また、機内サービスの質の向上という面では、現地採用のタイ人CA(キャビン・アテンダント)を数十人単位で採用しました。これだけタイ人の訪日観光客が増えている以上、快適な空の旅を満喫してもらうために、タイ人によるタイ語サービスは必須と考えました。来年から乗務を開始する予定です。現地CAの採用は、ロンドン、上海、ソウル、台北に次いで5拠点目となります。

そのほか、今月からフォーシーズンズホテルの高級タイ料理店「スパイスマーケット」監修の機内食サービスをビジネスクラスではじめました。来年3月からは、同ホテルのイタリア料理店「ビスコッティ」監修の機内食も提供します。



航空関連事業の進出・拡大ニュースも続いていますが

 これは、弊社グループ社長の伊東信一郎が目指すアジアシフトの表れです。先日、発表しましたが、タイの航空会社や大学と共同で、アジアで初となるパイロット養成専門学校を開校しました。また、タイ人の訪日需要を見越し、訪日個人旅行者向けの旅行会社をH.I.S.とANAセールスの合弁で設立しました。



盛りだくさんなバンコク支店へは、今年4月1日からの赴任と聞きました

 そうですね。タイの前は日本でしたが、その前の2006年〜11年まではドイツに赴任していました。入社以来国際関係の部署が多かったので、再度の海外赴任の話はうれしかったです。ただ、欧米関係の仕事が多かったなかでのタイ赴任は、少々驚きました。

与えられたミッションは、肩書がバンコク支店長兼カンボジア担当ですから、タイでのセールスに加えて、ASEAN(東南アジア)の直行便空白地帯であるカンボジアの可能性調査、いわゆる情報収集も業務のひとつです。



2度目の海外駐在ということで、異文化の環境での仕事、とくにマネジメントにおいては問題なさそうですね

 ドイツ人とタイ人では、まったく違いますので戸惑うこともありますよ。バンコク支店は、スワンナプーム空港の40人とオフィスを含めて、50人程度です。

今年は、日本—タイ就航25周年なので、積み重ねてきた組織ということもあり、大きな問題はありません。皆、非常によく働いてくれています。現在は、スタッフ一人ひとりに声をかけてコミュニケーションをはかり、少しずつ時間をかけながら、私なりの組織改革を図ろうと思っています。



来期の目標は

 色々と考えておりますが、まだはっきりとは言えません。ただ、羽田2路線、成田1路線という現状のうち、成田線の拡充が図れればと思っています。基本的に成田便は、早朝で搭乗者の多くがアメリカ便に乗り継ぐお客様が多く、逆もしかりです。時間帯をずらして日本—タイの往来客を狙って、もう1便を増やせればと考えています。



寺井支店長にとってANAとは、どんな会社ですか

 入社以来グループは大きくなりましたが、風通しはよいと思います。非管理職だった頃から、会社代表として国際会議に出席するなど、任せるという風土はやりがいを感じさせる魅力ある企業だと思います。

事業の分社化を図り、横並びとなったことで、今後はグループ企業間の垣根もなくなり、いっそう風通しがよくなると期待しています。


 

編集後記
“国内に強い”全日本空輸(ANA)と言われた時代は、すでに遥か昔だ。海外シフト、とりわけアジア戦略の勢いは目覚ましい。注力するタイでは、新鋭機787型や訪日需要を見越した現地採用CAの投入など、本業(空輸)のみならず、パイロット養成学校や旅行会社の設立と、矢継ぎ早の動きは目を見張る。巨大企業でありながら事業スピードが緩まないのは、寺井支店長の「若い人材に任せる社風がある」との言葉からも頷ける。次は、どんなタイ発のニュースが舞い込むか楽しみだ。(北川 宏)

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