トステム タイ

強みは、開発・設計・生産できる一貫体制

社長 下長 愛史

《プロフィール》 1957年生まれ。大阪府出身。関西大学卒業。1980年トーヨーサッシ(現トステム)入社。2014年トステムタイ社長就任。現在に至る。
 

強みは、開発・設計・生産できる一貫体制

—タイでの事業領域と現況について
タイ進出も、今年で29年となりました。ご存知の通り、1990年代に160万戸を超えていた日本の新設住宅着工戸数(年間)は、減少傾向にあり、現在は90万戸を割り込むまでとなりました。トステムタイとしても、長きに渡り日本向け住宅サッシを製造(輸出)してきましたが、数年前から現地向けサッシの販売を強化。タイおよびASEAN域内での市場開拓と商品開発を進めています。その結果、タイ市場への売上拡大も続いています。

—タイでは、住宅向け以外にも製造していると聞きました
10年ほど前から、日系自動車メーカーから依頼を受け、開発した自動車向けルーフレールやサイドステップを提供しています。培ってきたアルミの生産技術が生かされた結果です。そのほか、前述した現地向けの住宅サッシについても、国によってアルミ形材の合金や製造方法が違うので、多くの市場で対応できるよう、技術開発を進めています。

—タイ(ASEAN域内含む)市場は、好調のようですが、競合=ローカル企業との競争はいかがでしょう
経済発展による市場拡大が続く中、現地向け供給を開始して間もない弊社のシェアはまだまだ低く、逆に、伸びしろは大いにあります。

—まさに前途有望な市場ですね
もちろん、品質とコストの兼ね合いも重要です。弊社の強みのひとつが開発・設計部門を工場内に完備している点でしょう。つまりは、ニーズに併せて自由に商品を開発し生産、供給する能力があるということです。昨年は、ベトナム工場が竣工・稼働を開始したことで、生産能力は飛躍的に高まりました。ASEAN市場での拡大成長のため、タイを拠点としたASEAN域内をカバーする体制構築の一貫でもあります。

—トップの重圧はありますか
これまで、日本国内で4つの工場長を経験してきましたが、決定権者(社長)という立場は、経営者として、製造・開発・営業・経理など、「トステム タイ」の舵取りを担う重責を感じます。例え、日本本社から指示があるとはいえ、決断を大きく誤れば、約7000人からなるスタッフの家族にまで影響を及ぼしますから。

—下長体制ならではの管理・運営術を教えてください
タイに赴任して、9ヵ月足らずなので偉そうなことは言えませんが、経営者・リーダーには、カリスマ性やリーダーシップが必要だと言われています。凡人である私にとっては、不足している部分が多くあります。私は、感性やひらめきを生かして小さなことから自ら変化をさせていく「リーダーシップ力」と、当たり前のことを、バカにしないで、きっちりと進めていく「マネジメント力」のバランスを重視して実践していきたいと思っています。そして、結果を出すことによって人から信頼されるようになりたいと心掛けています。国が違えば文化・風習も異なります。会社の規模も大きく、多くのスタッフを抱えていますから、全員と接することは難しいのです。そこで、“下長”を良く知ってもらうことを目的に、4〜5人のメンバーと何でも自由に会話できるラウンドテーブルミーティングをスタートさせました。まず、日本人スタッフから始めて、タイローカルマネージャーに展開しています。

—単身赴任はいかがですか 
工場長時代から通算すると10年以上、単身生活ですし、バンコクは住みやすく不便を感じることはありません。残念なのが、山が少なく、趣味の山登りができない点ぐらいです。その代わりではないですが、新たにスキューバダイビングをはじめました。

—LIXILグループとなり、いまや日本の住宅設備業界の巨人ですが……
トーヨーサッシ(現トステム)を通算して35年目となりました。社会人としての基礎から、あらゆる面で成長させてくれた会社です。公明正大である企業色が、私にとっての基本指針にもなっています。弊社は、タイ進出29年ですが、現副社長を含めて多くの幹部(タイ人)は立ち上げからの生え抜きメンバーです。当時は、タイ国も貧しかったと聞いています。先日、永年勤続表彰を受けた20年戦士のタイ人スタッフが「入社し、教育を受けられ、自分自身の成長につながりました。その間、結婚し、子どもができ、テレビや車、そして家も買えました。一生涯、働かせていただく」とコメントしていました。会社とともに社員も成長していることが我社の強みです。これからも一緒に成長し、タイ国の発展に貢献して行きたいと思っています。


 

編集後記

「リクシルって知ッテル?」。記憶に新しいCMとともに、トステム、INAXなど5社が合併し誕生したLIXILグループ。そんな巨大住宅設備機器メーカーの生みの親が、母体“トステム”創業者の故潮田(うしおだ)健次郎氏であり、その辣腕ぶりは業界の語りぐさだ。今回、そんなカリスマ経営者の後ろ姿を見てきた下長氏にインタビューした。同氏が導き出した理念は「リーダーシップとマネジメントのバランス」。新時代という荒波を乗り越えるには、必要な術かもしれない。(北川 宏)

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