独立行政法人 国立高等専門学校機構 タイリエゾンオフィス

「いい技術者は、“教員の育成”から」
所長 松本 勉

《プロフィール》
まつもと つとむ
■1952年生まれ。福岡県出身。熊本大学大学院自然科学研究科修了(最終)〜77年、熊本高専(旧熊本電波工業高等専門学校)〜現在に至る。
■尊敬する人物:Donald Ervin Kunuth(数学者)
■座右の銘:人間万事塞翁が馬
■愛読書:M.Morris Mano「Digital Design」
■趣味:映画
■よく見るウェブサイト:MSNニュース


 

高専の概要をお聞かせください
まず歴史から話しますと、1962年に日本で初めての工業高等専門学校が誕生しました。経済が上向きになり始めた時期でしたが、日本の製造業工場でものを生産するための技術者が非常に不足している時期でもありました。この問題解決の一つとして、実践技術者育成を目指した高専制度が始まり、2004年、全国の高専を統括する仕組みとして高専機構制度も発足しました。

 

非常に簡略化して言うと、高校から大学卒業まで、計7年かけて技術や知識を身につけるところを、高専では圧縮・単純化して5年間で学び、いち早く現場へ向かいます。高等教育機関として設立され、実践的技術者育成から変遷し、現在はイノベーティブエンジニアを育成するような教育体系をとっています。現在、日本全国51校、55キャンパスを有し、年間約1万人の学生が入学しています。

 

タイオフィス開設の経緯は?
もともと、タイにある「Office of Vocational Education Commission(OVEC)」という教育機関と当機構で連携をとってきましたが、より本腰を入れてタイの技術者育成に取り組もうと、16年12月にオフィスの開所式を実施し、翌年4月、私が正式に着任しました。OVECは、タイ国内に開設される技術教育学校「テクニカルカレッジ」を主に管理しているのですが、ここは入学試験がない学校がほとんど。進学できない人たちが集まるという、良くない印象を持たれていたのが現状でした。

 

テクニカルカレッジの問題とは
タイはこの10年から20年の間で急速な経済成長を遂げましたが、“技術者育成”は忘れられている印象を受けました。テクニカルカレッジの点で言えば、学校の数だけを増やし続け、今や国立と私立を合わせて700校以上。ただ、そこで必要な教育者の育成が追い付いていないと思われます。ですから授業の質やレベルも高くなく、国としては予算をかけたいけれども、運営費や維持費だけで余裕はなし。そんな悪循環を断ち切り、技術教育の高度化を図るための支援を目的として、タイリエゾンオフィスが立ち上がりました。私はアドバイザーという立場で、カリキュラム作成や課題の抽出を行っています。

 

5月、タイ初の高専が開校したと
タイオフィスを開設した一つの狙いでもあるタイ初の高専が、チョンブリーとスラナリでスタートしました。チョンブリーは有名なアマタナコンやピントン工業団地、スラナリも周辺に工業団地があり、将来的には工場でのインターンシップや共同開発などを視野に入れてOVECが選んだのでしょう。主専攻は、メカトロニクスとエレクトロニクスです。開校までに、5年間のカリキュラムや授業内容をOVECのスタッフと共に固めていきました。

 

また、日本の高専の先生にタイにお越し頂いたり、テクニカルカレッジの先生を日本に連れて行って教員研修に取り組んだりと準備を進めてきて、ようやく……という感じです。

 

現状の課題は?
先にも話した“いい教員”を育てることが必要不可欠です。昨年、日本で研修を行いましたが、期間は1週間前後。今後は少なくとも3カ月〜半年の期間をかけて日本で研修し、日本の学校文化も含めて学ぶ必要があると考えています。留学制度も同様に計画中です。行き来が盛んになることで、タイの高専全体がもっと変わっていくでしょう。また、タイと日本との繋がりがさらに深まることで、日本の人材不足解消など、日本にとってのメリットも生み出せると考えています。

 

先生方の意識も変わりますね
高専は大学と比較されがちですが、技術力で見れば優秀な子たちばかり。高専の先生たちの心には、大学には負けないぞ、といういい意味での競争心があります。タイの生徒たちが大学生に比べていい企業に就職できるというイメージを得られば、先生たちもプライドを持って仕事ができる。それに続くように、学生たちにもタイを背負う人材になってほしいです。

 

デジタル回路設計の演習に取り組む現地教員

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