厳しい船出のパープルライン

8月に満を持して開業した紫の新線。フタを開けると切実な問題が浮き彫りとなった

 

日本製車両が初導入され、在タイ日本人の期待も高かった新高架鉄道パープルラインが、すでに前途多難な状況に陥っている。当初、同線の1日の利用者数は7〜10万人と見込まれ、スクンビットラインのような盛況をみせると予想されていたが、フタを開けてみれば、実際の利用者は1日2万人ほど。相当厳しい現実を突きつけられた格好だ。
その背景には、バンコク中心地に伸びるブルーラインのバンスー駅と接続しないことが挙げられる。同線の最寄り駅からバンスー駅に行くには、1㎞以上も離れており、他の公共交通機関に利用しなければならない。さらに高額な運賃もネックとなっており、仮にバンヤイ駅からシーロム駅に行くとすると、100バーツ以上かかる計算になる。
同線の不振により、不動産にも影響が波及。周辺地域のコンドミニアム(以下コンド)が予想以下の売り上げにとどまっている。政府住宅銀行の不動産情報センター(REIC)によると、16年8月までにパープルライン周辺(1㎞以内)のコンドは3万5615ユニットに増えたが、約1万ユニット(29%)が手つかずのまま。バンコク都内と周辺県のユニット数は全部で22万あるとされ、うち約6万が余った状態で、実に6分の1が同線周辺だと分析。開業が決まった11年より、周辺の不動産価格は数年で軒並み倍となり、多くの不動産会社がバブルに浮かれた。特需を見込んだ多くのデベロッパーが躍起になってコンドを建設し、気づけば供給過多状態となっていた。
すでにデベロッパーは、50万バーツの値下げやMRTを1000回利用できるカードをプレゼントするなど、初期投資の回収に走り、REICのサンマー氏は「2年間かけて全部売れるだろう」と前向きな予測をしている。同線を運営するMRTA社もすでに運賃を値下げし、今では開業当初の利用者10%増、さらなるプロモーションを実施していくという。また、同線はピンクラインとの接続やカンチャナブリーまで続く高速道路の建設、広さ100ライのセントラルウエストゲートもすでにオープンするなど、不安材料だけではなく、明るい兆しもある。
日本製の紫の車両が、いつしかタイの交通インフラを支える重要な存在になることを期待したい。

この記事をSNSでシェア!

一番上へ戻る