JETROバンコク

タイ経済は回復傾向へ

所長 保住 正保

《プロフィール》 1962年生まれ。福島県出身。84年4月通商産業省(現経済産業省)入省、2002年6月エネルギー政策企画室長、05年9月製造産業局参事官、08年8月岩手県警察本部長、10年8月貿易経済協力局貿易管理課長、14年6月ジェトロに出向、7月バンコク事務所長、現在に至る。
 

2015年のタイ経済回復の肝は、内需の回復と輸出の持ち直し

—2015年がスタートしました  昨年のタイ経済は、政治混乱の影響や自動車購入補助策の反動などにより、第一四半期にはマイナス成長に陥りました。第二四半期以降は、期待されていたよりも緩やかですが回復傾向が続いています。消費でいうと、自動車などの耐久消費財はまだまだですが、食品などの非耐久消費財については、かなり回復してきました。他方で、引き続き家計債務の高止まりや農産品価格の下落による農民所得の減少などの問題もあります。こういった点が改善してくれば、消費の回復は本物になるでしょう。また、昨年10月にタイを訪れた外国人観光客が前年比で増加に転じたこともプラス要因です。加えて、先進国向けの輸出が持ち直してきており、拡大傾向が見られます。今後は国内需要と輸出が本格的に回復すれば、生産も増加してくることが期待されています。



―今年は明るいというわけですね
2015年は、再開した投資認可による民間設備投資の実施や、政府支出、インフラプロジェクトなどへの執行の加速も景気を押し上げるものと期待しています。



―いよいよAEC(ASEAN経済共同体)が発足します 
2015年末を期限とするASEAN経済共同体、すなわちAECの創設により、ASEANを単一市場、単一の生産拠点と捉える動きがより強まる中で、タイは中核的な役割を担うことになると思います。カンボジアやラオス、ミャンマーなどの周辺諸国と陸で繋がるという点はタイの大きな強みといえます。

AECの実現により、タイの産業集積を中心に据えながら、周辺諸国での安価で豊富な労働力を効果的に活用し、より競争力の高い生産ネットワークを作ることが可能となるでしょう。AECの実現により、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムなどのタイ周辺の国々における関税の撤廃に加え、国境通関手続きの迅速化、簡素化などを促す効果も期待されます。特に日系企業はタイに圧倒的な産業集積を有しており、これらのメリットを最大限享受することが可能でしょう。ジェトロとしても、これらの日系企業の活動を積極的に支援していきたいと思います。



―最近の日系企業のタイへの進出状況は 
日系企業の進出はますます増えており、最近では既存の製造業などを顧客とするサービスセクター、卸・小売、運輸、人材紹介、コンサルティングなどの進出が目立っています。また近年、タイ国内では年間所得が5000ドルを超える中間層が急速に増えていますので、外食産業、Eコマース、生命保険・金融サービス、コンテンツ関係などの分野でもビジネスチャンスがあると考えています。もちろん引き続き投資計画のある自動車関連やインフラ関係も有望です。



―その中でジェトロの役割とは 
ジェトロの役割としては、現地の日系企業が抱える課題について抽出・分析を行うとともに、タイでのビジネス環境の改善に努めること、また特に中小企業を中心とした日本企業がスムーズに海外進出、タイへ進出できるよう積極的かつ総合的に支援することが大きな柱になると考えています。



―企業からはどのような相談が多いですか
お受けする相談内容は、タイの政治・経済情勢一般、機械・インフラ・食品など特定分野の市場動向、投資優遇策などの事業環境、タイでの会社設立手続き、経済連携協定の活用方法、知的財産関連など、多岐にわたっています。ご訪問頂く企業の方々も、日本から出張して訪問される方と当地タイに進出済みの方とが半数ずつを占めています。



―海外赴任は3度目と聞きました 
1993年〜96年までは中東イランの在タイ日本大使館に出向し、99年〜2002年までは在シンガポール日本大使館に出向していました。タイは14年7月からです。赴任してようやく半年が経ちました。中東での赴任と比べるとタイは、日本食も充実していますし、気候も暖かく、本当に過ごしやすいですね。ジェトロの事務所長という立場は初めてです。



―大きな組織でのマネジメントは初ということですか 
大きな組織を統括するという面では、岩手県警察の本部長を2年経験しています。ただ、タイは英語だけでは日常生活を送るのに不便なので、現在、タイ語の勉強を始めました。2015年は日系企業・団体にとって明るい年となるよう、これまで以上にサポートさせていただきます。


 

編集後記
日本の貿易振興を生業とするジェトロ。海外における日系企業の進出や貿易、観光誘致といった分野の相談窓口として外すことのできない組織だ。タイ投資委員会(BOI)は、2015年1月1日から、新たな投資促進戦略をスタート。日系企業にとっては、最重要トピックであり、情報収集は欠かせず、ジェトロの役割は大きい。「回復傾向にあり、今年は期待している」と話すバンコク事務所の保住正保所長は、イランやシンガポールでの海外経験を持つ。タイの地での活躍を期待したい。(北川 宏)

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