お互いを認め合いながら
日タイ特別支援教育の向上を


日本とタイを中心に、障がいのある子どもたちの絵画作品を展示した
「第1回アジア子ども絵画展」が今月上旬、BACCにて6日間の会期を終了。
その主催者として奔走した、藤原孝太郎さんをご存知ですか?

 

藤原さんが特別支援教育(旧・特殊教育)の道へ踏み出したのは、国全体が養護学校義務制に乗り出した初期の頃。現場での経験は早40年。定年退職を機に、頻繁にタイへ足を運ぶようになり、昨夏からタイ教育省のアドバイザーに就任。今年8月にはタイ教育省が開催した特別支援教育に関する「ASEANシンポジウム」運営メンバーとして活動するなど、日タイの教育界に携わっています。

そんな藤原さんが年を経て思うのは、自身の専門分野・美術を介した子どもたちの能力の開花。絵を描くことで落ち着きが身についたり、集中力が増したりという効果とともに、彼らの絵が心に訴えかける強さを肌で感じてきたのだそう。「彼らの作品は、一切の邪心が無いからこそ描ける唯一無二のものです」と藤原さん。また、作品を通して“褒められる”体験を積み重ねることが、彼らにとって大きな自信に繋がっているとも言います。

今回の絵画展では、元教え子である自閉症の川部浩さんが会場でワークショップを実施。タイ人との想像以上の交流ができたと、言葉に熱を込めます。タイで開催する以上、多くのタイ人に来てほしいと、親交の深いタイの特別支援学校代表のスチン校長や、WAFCAタイランド理事長スポンタム氏に告知を依頼。初日だけで、タイの大学生を中心とした60人以上に絵を贈ったという浩さん。その姿を訪れた人たちが見学したり、観光中の親子が一緒に絵を描いたりと藤原さんは振り返ります。無理強いするのではなく、作品や絵を描く姿を見て、自然と人が集まる。そんな交流を想い描いていたからこそ、喜びもひとしおでした。

日タイ教員の交換研修が
もたらす、新たなアイディア

タイとの接点が生まれたのは、愛知県立安城特別支援学校に勤務していた2011年。NPO法人アジア車いす交流センター「WAFCA」から、タイ・ロッブリー県にある特別支援学校の教員研修受け入れ先として声がかかりました。それまではいくつかの学校の見学のみでしたが、藤原さんは「せっかくの機会だから、学級の子どもたちの活動に入り込んでほしい」と、授業や給食時間を通して子どもたちと直接関われる機会を提案。研修内容も毎年見直され、その成果が少しずつ目に見えるようになっています。

特別支援学校とカフェが連動して指導する日本のキャリア教育の形態を知り、タイで同様のシステムを導入したのもそのひとつ。スクールカフェとして授業の実習先や職業訓練の場として、タイ国内で瞬く間に拡散されて驚いたと藤原さん。熱心なタイの先生たちに刺激され、日本側も環境が整わない中で“何とかする”というタイの姿勢を見習うように。

「お互いのいいところを認め合い、実際の現場に還元する相乗効果を実感します」と、藤原さんは優しく笑います。

定年退職を迎える直前には、同校と姉妹校提携を締結。その後は、WAFCAのタイ支部である「WAFCAT」と連携しながらタイと日本を行き来し、タイ各地の特別支援学校を視察。タイの現状を認識すると同時に、タイの教育関係者が日本に来る際は率先してアテンドし、情報を提供しているのだそう。

「私はある意味フリーランスです。ずっと自費で活動してきましたし、そこに損得はありません。だからこそ、私をどんどん活用してもらえたらと思います」———経験も技術も、未来ある子どもたちのために。

BACCで開かれた「第1回アジア子ども絵画展」にて(後列右が藤原さん、左から2番目が浩さん)


PROFILE
藤原 孝太郎 Kotaro Fujiwara
1956年、愛知生まれ。前・愛知県立安城特別支援学校長。2016年3月に定年を迎えた後、日本とタイを行き来しながら障がいのある人たちに向けた活動を続ける。NPO法人WAFCA理事、タイ障がい者エンパワメント協会顧問、一般社団法人アティックアート理事。座右の銘は「中庸をもって旨とすべし」。リフレッシュ方法は、絵を描くこと、散歩。

 


WAFCAT

認定NPOアジア車いす交流センター・タイ支部

Wheelchairs And Friendship Center of Asia, Thailand。みなさまからの寄付やご支援をお待ちしています。
[問い合わせ]
Address C/O DENSO (Thailand) Co., Ltd.
Tel 02-758-4646(2442)
Email wafcatthai@gmail.com
Website www.wafcat.or.th


編集部より
ある女性のおかげで実現した今回の取材。藤原さんに連絡をとったのは絵画展前日という多忙な時期にも関わらず、快く取材に応じて頂き感謝します。会場で浩くんに描いてもらったネコの絵は、今日もオフィスの机の上で目を光らせています


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