“唐辛子”に託す、
タイ山岳民族の真の自立支援


普段は、時代の潮流に乗るIT・通信事業を手掛けるビジネスパーソン。
けれど、休日はまったく違う顔を覗かせていました。子どもたちの未来のため、
メーホンソーンでの一期一会から始まった伊藤さんの物語を少しだけご紹介。

 

タイ北部メーホンソーン県南部のとある農村で支援を進める伊藤大己さん。表向きは、「a2network Thailand」代表としてタイ国内でベリーモバイル携帯電話事業を展開していますが、冒頭の話題はビジネスとは無縁の話。

「満足に教育を受けられないタイの子どもたちに、できることはないだろうか」と考えていた伊藤さん。タイ人スタッフの「私の親戚の田舎に遊びにきませんか」というひと言から、物語は始まりました。

スタッフと向かったメーホンソーン。そこで出会ったのが、地元で教鞭を執るタイ人男性のPrawitさんでした。顔を合わせる回数を重ねることで、いつしか「タイの父」と慕う間柄にまでなったのだそう。

そして月日は流れ、ある決断をします。同地はミャンマーから逃れてきたカレン族が、自給自足に近い生活を送る地域。タイの父からは「教育に必要な物資が足りない」「政府の援助が届かない」と何度も聞いてきました。促されるように自分にできることは何かと考えた時に浮かんできたのが、“知識の源泉となる図書館を建てること”でした。すぐに決意したものの、それでも何かが足りない。ITインフラである通信業界での知見と経験から、ひとつの答えが見つかります。

それが“仕組み作り”でした。図書館の維持修繕費や教育に必要な文房具、運動用具などは支援に基づくものではなく、村人たち自身で生み出せる仕組みがなければ続かない。そう考えたのです。

そこで目をつけたのが、村の数少ない現金収入源であり、同地で採れる「ピッカリアン」と呼ばれる唐辛子。
「パッケージやデザインで付加価値を与え、お土産として流通させれば、現在の収入よりもきっと増えるはず」。

一過性の支援は
したくなかったんです

思い立ったが吉日。すぐに現地へ飛ぶ傍らには、同社にインターン生として来ていた中央大学4年生の奥村倖子さんの姿も。「あくまでも自立支援であって、ビジネスではありません。奥村さんが社会インフラ開発を学んでいたことを知り、彼女に任せようと決めました」。

大事にしていたのは、自分たちが手を出すのではなく、村の人たちが自分たちで行動して、資金を捻出させられる仕組み作りの“お手伝い”という立場。「村の人たちが自立するという自覚を持ってくれなければ、『外国のお金持ちが図書館を作ってくれた』で終わってしまいますから」。そうして、“自立”への種を蒔き始めたのです。

今年4月、まずは図書館の着工を開始。それとは別に、“仕組み”の必要性を伝え続けました。対話を繰り返すことで、当事者意識が少しずつ芽生えていったと伊藤さんは言います。また、社内にも賛同者が増え、今では8名のプロジェクトメンバーで物資の支援活動や、唐辛子の商品化を進めています。「メンバーは仕事が終わってからの作業です。会社の役職は一切関係なく、インターン生であっても、想いの強い人がリーダーです」。

図書館着工日、村の人たちからは、「これでやっとスタートが切れる」との声が聞こえてきたそう。自立への芽が出た瞬間でした。「いつかこの場所から生まれた唐辛子が人気を呼び、次世代の子どもたちが図書館を利用している姿を夢見て、まだまだ頑張りますよ」。伊藤さんの物語は始まったばかりです。

着工記念の1枚は、種まきを終えた証拠。写真中央に伊藤さん、左端にインターン生の奥村さん

 


PROFILE
伊藤 大己 Daiki Ito
「a2network Thailand」代表。
1980年生まれ。4年間のシンガポール勤務を経て、タイ生活も4年目に突入。旅行や出張で30カ国以上を踏破。目指すは、モバイル・コミュニケーションビジネスを通じて、ボーダレスな世の中を実現すること。

 


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編集部より
ミャンマーとタイの国境は何度も訪れたことがあり、山岳民族の問題も知っているつもりでしたが自分には遠い存在と思っていました。伊藤さんのビジネス的発想を組み込んだ、真の支援活動には驚嘆です。(K)

 取材・文 北川 宏
 


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