声にできなかった言葉、
“こころのでんわ”で解放して


タイで思い悩む日本人を助けたいと、「こころのでんわ相談室」を
立ち上げた和子さん。創設から17年。かかってきた電話は1100件以上。
ボランティア相談員とともに歩んで来た、その道のりを尋ねました。

 

年間で死亡する在タイ日本人は100人前後。そのうち自殺者は10%弱で推移するというタイで、和子さんが「こころのでんわ相談室」を設立したのは、ある日本人男性の死がきっかけでした。

「20年ほど前にタイで日本人が自殺したというニュースを見て、タイで誰にも相談できずに苦しんでいる人、孤独を感じている人がいる……その事実を知った時に、タイに住む日本人が気軽に相談できる場所をつくれないかと思ったんです」。

大学時代に幼児教育を専攻し、その一環でカウンセリングの基本も学んでいたという和子さん。自殺のニュースを知った後は通信教育を活用し、心理学について本格的に勉強を始めます。

同時に見つけたのが、日本にある「いのちの電話」(連盟)という無料相談機関でした。タイで開設するためにはどうしたらいいかと相談すると、連盟は和子さんの活動を後押ししたいと研修を提案。半年ほどかけて、電話によるカウンセリングの基礎を身に付けていきます。そして、思い立ってから3年後の2001年、ボランティア相談員6人と無料電話相談室をスタート。翌年には、タイ政府による財団法人認可も受け、ゆっくりと歩き出しました。

数ではなく、“強い”
ファンを増やしていきたい

SNSの普及が進み、相談件数はピーク時の半分ほどになった今でも、相談室の必要性はあると和子さん。「インターネットで何でも情報が手に入るようになりましたが、“同じタイで暮らす見知らぬ人”と、電話を通して話がしたいと望む声は、強まっているように感じます」。

そんな和子さんが電話を受けた時、一番に考えるのは、相手がどんな気持ちで電話をかけてきたのか。その背景を汲み取り、相手の想いに寄り添うことを、何よりも大切にしているのだと言います。

「私たちは、アドバイスをしたり相手に意見を述べたりできる立場ではありません。みなさんが心の奥に閉まっている言葉を口にできるよう、それぞれのペースに合わせて、聴き役に徹します」。

もちろん、人の悩みは千差万別。かける言葉にも、定型はありません。1回で相談が終わる人もいれば、10年ほどやりとりが続いたり、時に癇癪を起こしたり泣き出したりする場合もあります。和子さんはそんな時、「いいよ。全部出し切るまで、待ってるよ」と静かに声をかけるのだそう。受話器の向こうにいる人たちが、ほんの少しでも前を向けるように。そして、悩みを解決する方法を、自分自身で見つけられるように。

これまでに集まった相談員は、延べ70人。日本で心理学を学んだ人も、ゼロから始める人もさまざま。みんな40時間の研修を経て、電話に向かいます。

和子さんは年々、電話に出る回数が少なくなったと言いますが、その理由は?

「今の私の重要な役割は、相談室を支える相談員のケアです。電話にどう対応していいか困った時のサポート役として控えるのは元より、相談内容を相談員が引きずってしまわないためのケアが必要だと感じるからです。ここで聴いた話は、持ち帰らないで。受け止めた相手の気持ちは、置いていってねって」。

昨年2月、「財団法人こころのでんわ」は、在タイ日本国大使館から表彰を受けました。和子さんは、支えてくれた方々のおかげと感謝の想いを吐露しながら、継続は力ですね、とニコリ。穏やかに静かに、今日も見えない声に耳を澄ませます。

相談員は、メモをとりながら話を聴きます

相談員は、メモをとりながら話を聴きます


PROFILE
チャィヤデイロ 和子
Kazuko Chaiyadhiroj
1949年、兵庫生まれ。76年、タイ人の旦那さんとの結婚を機に来タイ。保険会社に勤務した後、2001年に「こころのでんわ相談室」設立。翌年から財団法人となり、代表を務める。17年、在タイ大使館より表彰を受ける。タイで好きな場所は、相談室の事務所。リフレッシュ方法は寝ること。

 


こころのでんわ相談室

在タイ日本人のための無料電話相談室です

タイで抱える問題や悩みについて、お気軽にお電話ください。ボランティア相談員も随時募集しています。
[問い合わせ]
Tel: 02-392-3750(事務局)、02-392-2680(相談電話)
営業時間: 毎週日月火 10:00〜16:00
Facebook: バンコクこころのでんわ


編集部より
明るくチャーミングな人柄で、初対面の私を和ませてくれた和子さん。今後も活動を継続していくために、今は後継者を探している最中なのだそう。“継続は力なり”を次の代へ。どこまでも前に向かう和子さんに、私も負けてられませんね


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