【WiSEビジネス特集】IT特集〜動き出すタイランド4.0

タイランド4.0が目指す産業高度化では、ITC、IoT、AI、ビッグデータがキーワード。だが、現場にどう導入すればいいのだろうか?そんな疑問を解消する、同分野のエキスパート企業を紹介する。

タイランド4.0は、ASEAN各国の足並みと着実な積み上げで進む

タイランド4.0が目指す産業高度化では、ITC、IoT、AI、ビッグデータがキーワード。2016年に、プラユット暫定首相は新産業政策「タイランド4.0」を発表し、「これからのタイは、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)を使って高付加価値産業を育成する」と、新たな舵を切った。あれから2年。タイは変わったのか。JETROバンコク広域経済担当の蒲田亮平シニアエコノミストに尋ねた。

技術を“買うから作る”(イノベーティブ)を目指すタイランド4.0は進んでいるのでしょうか

「タイランド4.0」と聞くとやや抽象的なので、まずはASEAN全体の視点から、製造業やサービス業などあらゆる産業の4.0化を目指すに当たり、根幹となるデジタル分野でどのような議論が行われているか見てみましょう。

今ASEANでは、デジタル制度の整備に向けた議論が進められています。例えば、タイの工場で日々収集されるデータの日本への報告、周辺国のデータ管理は、日系製造業にも密接に関わる分野です。それを円滑に、透明性の高い状態で行うためには、一定のルールが必要です。具体的には、各国で個別に進む個人情報保護法も、個人情報の定義や管理方法で足並みが揃っていなければ、障壁になります。これについては、今年シンガポールがASEANの議長国として、デジタル経済を重点的に議論しており、「ASEAN電子商取引協定」の策定も進む予定です。

そして、来年はタイがASEANの議長国ですから、タイランド4.0に関わるデジタル分野の議論は一層深まっていくと考えられています。ただし、足元(タイ)の状況を見ますと、JETROが毎年行うアンケートでは、日系製造業の多くが付加価値の高い製品よりも、現状の製品に引き続き重点を置いて生産したいと答えています。

「タイランド4.0」と聞くと、新産業を一足飛びに誘致・育成するイメージが強いのですが、高付加価値分野へのシフトに躊躇する日系企業が多い中では、まずは“3.2、3.3、3.4”と既存製造業の高度化を徐々に進めていく観点も不可欠と言えます。

理念と現実との間に温度差があるということですね

その差を埋める具体的な取り組みが、EEC(東部経済回廊/Eastern Economic Corridor)地域開発です。現在包括的な開発を行うためのEEC法案が最終段階にありますが、注目しているのはタイ政府のコミットメントです。イノベーションを生み出す研究機関(R&D)、IoTやAIの活用には大きな初期投資が必要ですが、BOIの投資恩典(法人税の免除)だけでは、利益を生むまでの数年間を支援するには足りません。

中国やマレーシアでは、前述した取り組みを推し進めるために、補助金制度があります。タイにも特定産業競争力強化法の下で補助金制度が導入されていますが、枠は限られています。そうした制度面の具体化は、日系企業が産業高度化に舵を切るための重要なポイントになると思います。

補助金だけではなく、細かな規制も障壁ですね

EEC法案では、EEC事務局に、EEC域内で規制緩和を行うことができる権限を与えることが検討されています。これは非常に重要なステップです。

例えば、自動運転をイメージすると、道路交通法やデータの取り扱いなど、既存の法規制が複雑に絡み合うため、公道での実験を行う際の障害になりえます。それをEEC域内では取り払い、自由に実証実験ができれば事業化までのスピードは早まるはずです。このように、政府が革新的な新事業を育成する際に、現行法の規制を一時的に停止する規制緩和策は、すでにシンガポールでは盛んに使われています。タイでも、EEC事務局がどの程度機動的に規制緩和策を打ち出せるか注目しています。

中国企業に対し、日本企業の取り組みはどう映りますか

現段階で理念がやや先行する中、ビジネスを上手なやり方で進めているのが、中国のIT企業アリババです。

マレーシアでは、マレーシアデジタル経済公社(MDEC)と提携し、包括的な越境ECハブである「デジタルフリートレードゾーン」構想を立ち上げました。中国企業は同様にタイでも政府と提携し、EEC地域を核にクラウドサービス、データセンター、物流拠点の整備計画を発表しています。彼らが上手なのは、タイやマレーシアで喫緊の課題となっている中小企業支援もパッケージとして提案することで、このような大きな政府のコミットメントを得る手法を採っていることです。

つまり、中小零細企業支援を名目に国と組み、制度化させ、多くの企業を中国のECにつなげてしまおうという計画です。さすがに、このような土俵で勝負することは難しいと思います。

日系企業の入り込む余地は?

前述のような大きな戦略面では、少し中国に差はつけられていますが、丁寧に見ていけばまだまだ参入余地は大きいと思います。先ほど、タイの製造業界において「タイランド4.0」への期待がある一方、しっかり足元を見ることも欠かせないという話をしました。

例えばデジタル化の課題のひとつは、導入コストの大きさですが、簡素化させたAIシステムでコスト削減を図る工夫をしている事例もあります。その企業によると、画像解析で通常AIに読み込ませる必要があるデータ量は数千枚とのことですが、それを数百枚単位で解析できる簡易なシステムを作り、10分の1のコストで提案しているとのことでした。

また現状のモノづくりの延長線で、製造工程の一部だけIoTを導入するなど、日系企業が得意とするコンサルティングを重ねながら、こまめな提案を行って営業を伸ばしている企業もいらっしゃいます。現実的には、サプライチェーンが高度化する中で、増え続ける検品(検査)工程にAIやIoTを入れる動きが進んでいるようです。

中期的に課題となるのは、前述のASEAN個別国で進むデータの越境移動に制限をかけるような法制化の動きです。現在の企業活動に支障が生じないよう、在タイ日系企業としてもASEAN全体のルール形成への関与を強めるべきでしょう。同ルール形成は、米系デジタル企業が積極的に行っているため、日本としては足並みを揃え、米国と一緒に戦える分野を推し進めるのが定石かもしれませんね。

 


Thailand 4.0とは?

今後20年をかけて、工場(モノをつくる)としての役割から、価値を創り出す経済への転換を図るタイの目玉政策。具体的には、伝統的な農業をスマート農業へ、伝統的な中小企業からベンチャー企業へとあらゆる現状をステップアップさせるのが目的。つまり、技術を“買うから作り出す”、昔ながらのサービスから高付加価値のサービスへ、非熟練作業者から知識労働者・熟練作業者への転換を指す。タイランド4.0で注力するのは、10の産業。中でも、現在も他国に比べて有利な5つの産業である次世代自動車、スマートエレクトロニクス、医療ツーリズム、農業とバイオテクノロジー、食品分野。さらに、ロボティクス、航空・ロジスティクス、バイオ燃料やバイオ化学、デジタル技術、医療ハブの分野に焦点を当てる。

 

IoTとは?

「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」と訳される。パソコンやスマートフォンなどの情報通信機器に限らず、すべての「モノ」がインターネットにつながることで、生活やビジネスが根底から変わるという概念。「モノ」をインターネットと接続してデータの送受信を行い、その全てのデータを蓄積・分析することで、あらゆる産業に活用できる。既に製造業をはじめ、農業、小売業、金融業、医療業、エンターテインメント業など、さまざまなビジネスネスシーンで利用されている。

 

 

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