Jリーグアジア戦略10年~川崎フロンターレ編

発端はパートナー企業の要望、
継続することで広がった事業の可能性

Jリーグがアジア戦略をスタートした2012年、川崎フロンターレのクラブパートナーである東急グループがベトナムでの大規模な都市開発に乗り出した。そこからフロンターレのアジア事業が始まる。

 

街づくりに合わせたベトナム進出

東急は同年、ベトナムのデベロッパーであるベカメックスIDCと合弁会社ベカメックス東急を設立。ホーチミンの北30キロに位置するビンズン新都市の街区面積110ヘクタールを対象に「東急ビンズンガーデンシティ」の開発に着手した。
 
そのスタートに当たり、ベトナムへの挨拶代わりに人々に楽しんでもらえるイベントを催したい。そう考えた東急はフロンターレにベトナム遠征を持ちかけた。何しろベトナムではサッカーが「超」が付く人気スポーツ。老いも若きもサッカーに心を寄せる。
 
翌2013年は日越外交関係樹立40周年という節目の年だった。その記念事業の一つとして6月、東急ビンズンガーデンシティカップを開催し、ビンズンスタジアムでフロンターレとVリーグのビンズンFCが対戦した。
 
会場では「日本の祭り」と銘打ち、盆踊り、川崎大師を模した風鈴市を行い、屋台でたこ焼きなどを提供した。エア遊具で子どもたちを楽しませる「キッズランド」を併設し、フロンターレのホームゲームと同様にサッカー以外のエンターテインメントをふんだんにそろえた。

それはフロンターレが築いたサッカーを核とした複合エンターテインメントの提示であり、そうしたユニークなクラブと関係する東急を印象づける機会になった。
 
この催しの成功を経て、ベカメックス東急は街づくりにサッカーを絡めていく。同社の平田周二副社長(COO)は「東急は街づくり会社であり、単体の不動産開発で終わらせるつもりはない」と話す。「マンションを建てて終わりではなく、商業施設、娯楽施設をつくり、通信・交通インフラを整え、人々が誇りを持って住み、働ける街を開発し、管理運営していく」
 
この街に住みたいと思わせ、住民の生活を豊かにするには、そのためのコンテンツが欠かせない。ベカメックス東急はその軸になるのがサッカーであるとみた。その考えがベトナムでの育成年代の国際大会開催、サッカースクールの開校につながっていく。

 

日越の育成年代の強化と国際交流

2014年にもトップチームが遠征する予定だったが、ベトナムと中国が領土問題で衝突したため中止を余儀なくされ、代わりにU-13チームが遠征した。その後、フロンターレは国際交流基金アジアセンターの事業として育成コーチの短期派遣、ベトナム人選手とコーチの日本への招へい、単発のサッカー教室などベトナムでの貢献事業を重ねる。

アカデミー遠征選手による児童養護施設での交流


一連の地道な活動が2018年、ビンズン新都市でのベトナム日本国際ユースカップU-13の開催に結実する。両国から13歳以下の4チームずつを招いたこの大会はすでに4度の開催を重ね、選手の児童養護施設訪問、交流パーティーで社会教育、国際交流の場も設けている。日越外交関係樹立50周年の2023年は他のASEAN諸国からもチームを招く計画だ。
 
特筆すべきは、この決して華やかとはいえない中学生の大会をエースコックベトナム、ロッテベトナム、日東電工ベトナム、NTTイーアジアなど20社を超える企業が支えていることだ。
 
第1回から支援するエースコックベトナム・マーケティング部の梶原伸介部長はその意義をこう話す。「この大会はベトナムのサッカーを底上げする素晴らしい取り組み。ベトナムの若者を支援することでエースコックに対する親しみ、信頼感が増す」

同社の即席麺のベトナムでのシェアは50%を超え、商品PRのためベトナム代表をサポートしている。その一方で知名度の低いユース大会を支えるのは「消費者に寄り添った企業であるというイメージづくりになるから」だという。
 
大会の企画、法人営業、関係各機関との調整を手掛けるブレインコミュニケーションズの古川直正代表は「フロンターレという1企業のためでは、賛同は難しかった」という。
 
「ベトナムに進出している日系企業にはこの国でビジネスをさせてもらっているという意識がある。これだけ多くの企業が協賛してくださったのは、この大会がベトナムのためになり、日越の友好、そして日本のプレゼンスのアップに結びつくから」。この考察はJリーグと各クラブによるアジア事業の成否のカギになるのかもしれない。

 
クラブパートナーの東急グループによるベトナムの街づくりに合わせ、川崎フロンターレはアジア事業をスタートした。その事業は10年を経て次のステップに入りつつある。

ベトナムで通年のサッカースクール開校

フロンターレはベトナムでユースカップ開催、単発のサッカー教室、育成コーチ派遣を重ねてきたが、散発的なのは否めなかった。ビンズン新都市で都市開発を進めるベカメックス東急の平田周二副社長(COO)は「フロンターレがビンズンで継続的に地域に根ざした活動に取り組んでいただくのが望ましい」と話す。
 
その考えのもと、2021年12月、フロンターレとベカメックス東急は共同事業としてビンズン新都市での通年のサッカースクール(有料、5歳~12歳)を開校した。それは住民の生活を潤わせ、満足度を上げるソフトとなり、新都市の価値を高める。
 
ベカメックス東急が運営主体となり、フロンターレは常駐コーチを2名派遣し、挨拶や礼儀も重視した指導に当たっている。スクール生は現在(延べ)180人を数える。
 
東急ガーデンシティのマンションからグラウンドへは無料送迎バスを運行。スクール生の親から「旧市街から新都市に引っ越したい」「東急のマンションに住みたい」という声が聞こえるという。この冬には自前の屋根付きフットサルコート4面ができる。そうなると地域住民のフットサル大会、学校の部活による活用など地域のための活動の幅が広がる。

受講料収入のほかに企業協賛金がスクール事業を支える柱になる。精密測定機器メーカー、ミツトヨの現地法人(本拠は川崎市)が協賛し、スクール生のユニフォームに企業名を掲出している。ともにベトナムをはじめとしたASEAN諸国に進出している企業だ。
 
フロンターレがアジア事業をスタートして10年。サッカー事業部の池田圭吾海外事業担当ディレクターは「U-13の大会やスクール事業を通じて様々な企業と関係性を構築できた。それが10年の大きな成果。支援してもらえるのは、事業を継続してきたからこそだと思う」と語る。

2020ベトナム日本国際ユースカップU-13(再開発の進むベトナム ビンズン省にて)


現地のクラブとのつながりも深まってきた。「フロンターレの育成メソッドを学びたい」「日本で合宿をさせてくれないか」「ウチのユースにいい選手がいるので取らないか」という競技面の相談だけでなく「クラブ経営・事業運営について学びたい」という声も出てきた。こうした関係性をいかにクラブのメリットに直結させるかが今後のテーマになる。

 


 
 

サイアムにあるJ.LEAGUE ROOMではパブリックビューイングが行われている

フロンターレは今季、北海道コンサドーレ札幌からタイの国民的スター選手、チャナティップを獲得した。今年4月に就任後、ベトナム、タイに足を運んできた吉田明宏代表取締役社長は「彼の加入でフロンターレのアジア事業が転換点を迎えた」と強調する。
 
チャナティップを獲得したのは「フロンターレのサッカーにフィットする」という鬼木達監督の要望に応えたからで、最初からアジアでの事業収入を当てにしたものではない。
 
とはいえタイでの人気は絶大で、テレビのCMや街角の看板で露出があふれている。フロンターレ加入後、クラブのFacebookのフォロワーが17万から34万に急増した。タイのサイアムスポーツはフロンターレの試合をほぼ毎節、放送するようになった。
 
クラブは春からタイでチャナティップを絡めたスポンサー契約の営業を進めてきた。池田海外事業担当ディレクターは「タイでは誰もが知っている選手であり、キャラクターも優れている。彼を使いたいという企業が多い」と好感触を得ている。
 
吉田社長は「タイでの露出が私服姿ではなくフロンターレのユニフォームを着たものにしていきたい。そうなればフロンターレだけでなくJリーグ全体が注目される」と説く。「将来チャナティップがいなくなっても、Jリーグは面白いので、試合を見続けるタイ人を増やさなくてはならない」

ベトナムでの事業にも大きな動きがある。11月、フロンターレのトップチームがタイで開催のJリーグアジアチャレンジに北海道コンサドーレ札幌と共に参加することが決まっており、その後、ベトナムに移動し、9年ぶりに親善試合を検討している。吉田社長は「目の肥えた現地のファンにフロンターレのサッカースタイルを披露できる。インパクトは大きいはず」と期待する。
 
 「少子化と娯楽の多様化が進む中、日本国内だけを対象としていたのではマーケットは先細りする。アジアに出て行くのは必然」と吉田社長はベトナム、タイでのアジア事業にさらに力を注ぐ考えだ。
 今秋、現地でフロンターレのサッカーの神髄を直に伝えることで、クラブのブランド力と求心力が高まり、様々な企業との連携で地道に継続してきたアジアでの事業がこれまで以上に力を得て、加速するのではないか。
 
(取材・文 吉田誠一)

 

 


 

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10/29(土) 13:00 横浜F・マリノス 浦和レッズ SIAMSPORTのYouTubeで無料生配信
13:00 京都サンガF.C. セレッソ大阪 SIAMSPORTのYouTubeで無料生配信
13:00 サンフレッチェ広島 北海道コンサドーレ札幌 SIAMSPORTのYouTubeで無料生配信
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