【亜州ビジネス編集部】
ASEANの半導体産業が新たな段階を迎えている。これまで域内は組立・検査・パッケージングなど後工程を中心に発展してきたが、AI向け半導体需要やサプライチェーン再編を追い風に、前工程、先端パッケージング、IC設計、パワー半導体まで投資対象が広がっている。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)によると、2029年までにアジアで64カ所の新工場が稼働する見通しだが、東南アジアは6カ所にとどまる。前工程の不足という課題を抱える一方、各国が得意分野を伸ばす「分業型」の半導体集積が鮮明になってきた。
先頭を走るのがシンガポールとマレーシアだ。シンガポールでは米マイクロン・テクノロジーが2026年1月、NAND型フラッシュメモリーの新工場を着工した。今後10年間の投資額は約240億米ドル(約3兆7900億円)で、28年下半期のウエハー生産開始を予定する。米グローバルファウンドリーズ(GF)も米モノリシック・パワー・システムズ(MPS)と提携し、シンガポールの300mm工場で27年初めから高性能電源管理半導体を量産する計画だ。AIデータセンターの拡大を背景に、シンガポールはASEANの前工程拠点として存在感を強めている。
マレーシアは従来のOSAT(半導体組立・検査受託)から、IC設計や先端パッケージングへの高度化を急ぐ。政府の国家半導体戦略(NSS)に関連する認可投資額は25年末までに850億リンギ(約3兆2850億円)を超え、高度人材の育成人数は目標6万人に対して1万8062人に達した。AIやデータセンター投資の拡大も、半導体需要を押し上げる要因となっている。
これを追うのがベトナムとタイだ。ベトナムでは米インテル、アムコー・テクノロジー、韓国ハナマイクロンなどが後工程拠点を展開する。韓国サムスン電子も約15億米ドルを投じ、北部タイグエン省に同国初の半導体検査工場を建設する計画で、27年11月の稼働を予定する。年間能力はDRAMが1533億Gb、NAND型フラッシュメモリーが2556億Gbとされる。地場FPTも26年1月、ベトナム企業が全額出資・運営する初の先端半導体検査・パッケージング工場の設立を発表した。
タイでも投資が拡大している
23年から26年上半期までの半導体・先端電子分野の投資奨励申請は879件、総額9090億バーツ(約4兆4000億円)に達した。独インフィニオン・テクノロジーズは10月1日、サムットプラカン県の新工場を開設する計画を示しており、EVや蓄電、クリーンエネルギー向けの先端パワーモジュールを生産する。タイは自動車産業の集積を生かし、パワー半導体や関連電子部品の誘致を進めている。
フィリピンも半導体を産業政策の中核に据える。米国主導の半導体・AIなどのサプライチェーン構想「Pax Silica」に参加し、ニュークラークシティーに約1600ヘクタールの先端製造拠点を整備する計画を進めている。半導体やAIなどの高付加価値産業を誘致し、従来の後工程中心の産業構造からの高度化を目指す。
ASEANの強みは、台湾や韓国と同じ最先端ロジック半導体の量産体制を各国が個別に構築することではない。シンガポールの前工程、マレーシアのOSAT・先端パッケージング、ベトナムの検査・組立、タイのパワー半導体、フィリピンの電子部品という既存の産業集積を高度化し、域内で相互補完的な供給網を形成できる点にある。
AI、自動車電動化、データセンターという3つの需要が同時に拡大する中、焦点は「チャイナ・プラスワン」による生産移転から、ASEAN自身がどこまで設計、前工程、先端パッケージングなどの付加価値を取り込めるかへ移りつつある。SEMIが指摘する「ファブ・ギャップ」をどこまで埋められるかが、ASEAN半導体産業の次の成長を左右しそうだ。




