年間の平均気温は29℃。高温多湿なモンスーン気候に属し、一年中蒸し蒸しとした暑い日が続くタイは、まさに“虫たちの楽園”。なかでも、私たちの生活圏にはあらゆる場所に出没し、不快感や健康被害など良からぬ影響を及ぼす「害虫」は驚くほど逞しい生命力と繁殖力を合わせ持ち、時にはタイ生活を送るうえで悩みのタネになってしまうことも。
ひと口に「害虫」と言っても見た目も病害もさまざまですが、蚊に刺されただけで発症する「デング熱」をはじめ命に関わる恐ろしい感染症もあります。気候も衛生環境も日本とは異なるタイの害虫対策を心得て、安心・快適な生活環境を整えましょう。
タイ・バンコクの住まいと害虫事情
コンドミニアム高層階ではハチの巣に注意
前述のような気候条件に加え、不動産の建築品質、家庭ゴミの分別に関する意識の希薄さなどさまざまな要因が相まって、いわゆる高級物件や高層階でも害虫に遭遇するリスクがあります。とりわけ目撃頻度が高いのはゴキブリです。
家庭でできる対策としては、台所や洗面所といった水回りを清潔に保つ、引っ越しに使ったダンボールはすぐに処分する、エサとなる食べ物を室内に置きっぱなしにしない、ゴキブリが嫌う市販の虫除け(忌避剤)を活用する、などが挙げられますが、タイ生活の必需品であるエアコンの室外機やホースなど侵入経路も多く、まさに“神出鬼没”状態。一度出てしまったら、プロに駆除を依頼するのもひとつの手です。
また、高層階は高層階なりの心配の種も。というのも近年、コンドミニアムの高層階にハチの巣を作る例が増えています。これは日本のタワーマンションでも事例が多く、ちょっとした社会問題にもなっています。もし、バルコニーなどでハチの巣を発見したら、自分では手を出さずにプロに依頼するのがベター。気をつけてください。
在タイ日本人が暮らすコンドミニアムやアパートと呼ばれる賃貸住宅では、1〜2カ月に一度のペースで、専門業者による害虫駆除(ペストコントロール)が行われているのが一般的。駆除には人体やペットに影響の少ない薬剤が使用され、ロビーや通路といった共有エリアの他、各居住室内にも散布可能(費用は無料)。管理事務所で申し込みをできるところがほとんどなので、上手に活用するとよいでしょう。
殺虫剤スプレーはありますか? 【殺虫剤=สเปรย์ฆ่าแมลง(カーマレン)】
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蚊帳を売っていますか? 【蚊帳=มุ้งกันยุง(ムン・ガン・ユン)】
ミー・ムン・ガン・ユン・カーイ・マイ(カ/カップ)?
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こんな害虫に要注意!
特に今シーズンはデング熱に気をつけたい!
対策グッズの紹介も
水と食料が潤沢にあり、気温や湿度も快適そのもの。そんな住人にとって居心地の良い「住まい」は、残念ながら害虫にとっても絶好の「巣みか」でもあるのです。
家の中に「入れない」「増やさない」「刺されない」の三原則を忘れず、日頃から予防と対策を心掛けましょう。
ヤブ蚊【発生シーズン:通年】
そして、今シーズンは特に注意!とされているのが、いわゆる熱帯病としてタイ全土で警戒が呼び掛けられるのが「デング熱(DENGUE/BREAK BONE FEVER)」。コロナ禍で外出する機会が減り、デング熱に対する免疫力が下がっている人が多いことから、保健省も警鐘を鳴らしているほどです。
デング熱はヤブ蚊(主にネッタイシマカ、ヒトスジシマカ)がデングウイルスを媒介することにより起こる感染症のひとつで、タイでは毎年数十万人が感染、100人ほどが命を落としています。
ボウフラと呼ばれる蚊の幼虫は5〜9月にかけての雨季に発生しやすく、水辺やゴルフ場などでは特に要注意。屋外でのアクティビティには長袖を着用する、虫除けを携帯するといった蚊除け対策が必要です。また、一般的なタイの集合住宅には網戸が無いため、家の中に侵入しやすいのも難点。低層階にお住まいの場合は、蚊取り線香や蚊帳(タイ語で蚊はユン、蚊帳はムン・ガン・ユン)を用いるなど工夫を講じましょう。デング熱は刺されないことが唯一の予防法なのです。
金鳥蚊取り線香
電気蚊除け
虫よけリング
ゴキブリ【発生シーズン:通年】
タイでよく見られるのが、ワモンゴキブリと呼ばれる外来種です。茶褐色で光沢があり、体長は5cm程度。1匹のメスが生涯に産む幼虫の数は700匹以上とも言われ、非常に繁殖力が強いという特徴があります。
前述のような住環境に加え、荷物に付着した卵の繁殖や排水口からの侵入なども見られ、雨季のピークには目を覆いたくなる光景を繰り広げることも……。また、汚染された食品を口にすると嘔吐・下痢などを誘発してしまうため、日頃の徹底した予防対策はもちろん、万が一に備えて殺虫剤の常備を強くお薦めします。
噴射型殺虫剤
蟻【発生シーズン:通年】
どんなに小さな隙間からも侵入し、人知れず大量発生してしまうのが南米発の外来種・ヒアリです。噛まれるとチクッとした痛みがあり、強い痒みや腫れ、アレルギーを引き起こすこともあります。一般的な対策としてはゴキブリと同様、お菓子や甘い食べ物を出しっぱなしにせず室内を清潔に保つ、見つけたら駆除剤を使うなど。また、侵入経路を塗材で塞いでしまうのも一策です。
アリの巣コロリ
シロアリ【発生シーズン:通年】
見つけてしまったが最後、素人の手ではどうすることもできないシロアリは、バンコク都心の建物でもたびたび取り沙汰されます。築浅物件なら安心かと言えばそうでもなく、高層階でもシロアリ被害に遭ってしまうことがあるのだとか。天井や壁から軋む音がしたら、それがシロアリ発生のサインかもしれません。いずれにせよ、駆除業者の手配が必要になるので、物件のオーナーもしくは仲介した不動産会社に相談するほかありません。
ネズミ【発生シーズン:通年】
バンコク都心部でも、飲食店の多いエリアやゴミが放置された歩道などで度々目撃される、いわゆるドブネズミ。大きなものでは体長30cmにもなり、すばしっこいのが特徴です。雨季にかけてよく繁殖しますが、稀にコンドミニアムやアパート内に侵入してしまうことも……。噛まれると狂犬病を発症するリスクがある他、タイでは年間2000人弱が発症するというレプトスピラ症の恐れもあるため、こちらも自力で対処せず、物件の管理事務所を頼るのがベターです。
実は“お邪魔虫”じゃない「ヤモリ」
外壁に張り付いて「キィ〜」と鳴いていたかと思えば、ドアの隙間をするりとすり抜けて室内に入り込む厄介なタイのヤモリ、その名も“チンチョ”。ただし、「ヤモリ=家守」と書くように、実は虫除けの意味ではとてもありがたい存在。人知れず、小さな虫やゴキブリを捕食してくれているのです。それでも“ビジュアルが無理”“絶対に見たくない……”という方は、市販の忌避剤をお試しあれ。ヤモリが香りを嫌うタマネギを薄く切って室内に吊るす、ニンニクと水を合わせたスプレーを振りかけるといった“ニオイ攻撃”で撃退するのもお薦めです。
忌避効果のあるタイハーブを上手に取り入れる
ハーブ大国・タイならではの植物の恵みを使って、家庭でも手軽に虫除け対策をすることができます。
サシェとしてティーパックに入れて玄関や窓際などに置くことで、忌避効果を期待できます(虫除けのため殺傷効果はなし)
また、お気に入りの香りやハーブを組み合わせて虫除けスプレーを作ることも。
小さな子どもやペットがいる家庭など、市販品に頼りたくない場合にオススメです。
バジル
香りの成分に鎮静作用、殺菌・抗菌作用もある万能タイプ。蚊やハエが嫌う成分が含まれています。
レモングラス
スーパーで簡単に手に入る、レモンに似た香りのイネ科のハーブ。特に蚊に対して効果があります。
ペパーミント
清涼感のある、少し強い香りが特徴。虫が嫌う成分「メントール」を多く含んでいます。
ライム
虫の嫌いな柑橘系の香りを放ち、中でもマラリア原虫を媒介するハマダラカを寄せ付けない効果があります。(バンコクなど都市部にはマラリアの感染リスクはありません)
ユーカリ
アロマオイルや虫除けスプレーにも使われ、強い殺菌効果・抗炎症作用を期待できます。お湯を張ったカップにオイルを数滴垂らして部屋に常備しておけば、嬉しいリフレッシュ効果も。