カスタードナカムラ オーナー
中村 喜代司さん
1947年生まれ。千葉県市川市・行徳出身。同県の県立国分高校を卒業後は地元の喫茶店でアルバイトを始める。近所のケーキ屋の紹介で錦糸町のベーカリー「カスタード」で修行を始め、26歳の時に独立。1973年に東京メトロ東西線の行徳駅前に「カスタードなかむら」をオープンする(同店は2020年3月末で閉店)。1987年にはバンコク店もオープンし、今年で創業38年を迎える。
文 菊地葉月

子どもの頃、母と一緒に近所のパン屋さんに行くのが楽しみだった。
一瞬で人を笑顔に、幸せにする焼き立てパンのいい香りは、何にも変えられない不思議なパワーがあると思っている。

日系スーパーや飲食店が軒を連ねるバンコクのスクンビット33/1。
この一角でひときわ賑わいをみせているのがベーカリーショップ「カスタードナカムラ」だ。

創業は1987年。もともと和菓子屋だった場所を買い取り、カスタードナカムラとしての営業がスタート。
現在までお店の場所を移転することなく38年間、ひたむきに営業を続けている。

創業者の中村喜代司さんは千葉県市川市・行徳出身。
県立の高校に入学するも、「サラリーマンになるつもりはなくて、だからといってこれといった明確な夢もなくて」と、高校卒業後は地元の喫茶店でアルバイトをしながら過ごしていたという。

この頃から次第に「(何かを)作って、売るという商売もいいな」と思い始めた中村さんは、近所のケーキ屋さんの紹介で錦糸町のベーカリー「カスタード」で修行することになる。

カスタードでの修行を終えた中村さんは1973年(昭和48年)11月に、地元・行徳で「カスタードなかむら」をオープンする。26歳の時だった。

店舗は2階建てで、1階が売り場、2階はイートイン兼カフェレストラン。
店名は中村さんが修行していたパン屋の「カスタード」と、名字の「中村」を組み合わせて名付けられた。

一方で日本から遠く離れたタイ・バンコクでも「カスタードナカムラ」を展開することとなるのだが、「実はお店をオープンするつもりはなかったんです」と話す。

当時は日本の店舗の従業員が不足していたことから、研修生を募集するためにバンコクに会社を設立したことがきっかけとなり、あわせて店舗をオープンする運びとなったそう。

タイの店舗は5階建て。1階に売り場、2階から上は工房となっていて、各階でパンの生成や具材の準備、生菓子の製造などが行われている。

タイは気候や環境が日本と異なり、パン作りには一段と手間がかかる。
中村さんは「きめ細かい温度管理」「常にできたての状態でパンを提供する」など、スタッフへの教育を徹底した。

日本とタイの両店舗は順調に営業が続いていたのだが、2020年の新型コロナウイルスのパンデミックで営業停止に追い込まれることになる。

行徳店は営業できていたもののタイ人スタッフが日本へ来ることができず営業に苦労し、バンコク店はスタッフ11人が感染し1カ月間店を閉めることになるなど苦戦を強いられた。

ただ、中村さん自身は悲観することなく、これを“転機”と考えた。
47年ものあいだ地元民に愛された行徳店は惜しまれながら営業に幕を閉じ、今後はバンコク店一本で勝負していくことを決意したのだった。

カスタードナカムラは今年で創業38年。
「日本人オーナー監修」「リーズナブルな価格帯」「豊富なラインナップ」といった他店とは一線を画す存在で“独自ブランド”を確立。

在タイ日本人のみならず、タイ人やその他の外国人の利用も増え、多い時は1日になんと1000人以上が来店するという、押しも押されもせぬ人気店へと成長した。

また、こんな小話も。
「お店を始めるまではパンをあまり食べることがなかったんです。だって、ジャムを塗ったり、サラダやスープを用意したり、食べるまでに時間がかかるでしょう」。
思わず「確かに!」と納得してしまった。

そんな中村さんだったが、今ではビールと一緒にサンドイッチを食べることが日課になっているのだと、チャーミングな笑顔で話してくれた。

取材の最後に「誌面用に写真を撮らせてほしい」とお願いしたところ、「1人だと恥ずかしいから、スタッフも一緒なら」と撮影をOKしてくれた。

中村さんが中央に座り、スタッフさんが周りを囲む様子はまるで家族写真のよう。
久しぶりにじんわりと、なんだかほっこりする気持ちになった。

カスタードナカムラ

1987年創業の日系ベーカリーショップ。食パン、サンドイッチ、菓子パン、惣菜パンの他、ケーキやプリンなどの生菓子まで揃う。1番人気はミンチカツを挟んだ「ミンチカツサンド」。リーズナブルな価格帯と、日本クオリティの美味しいパンが魅力で、毎日オープンから閉店まで日本人やタイ人など多くの人が訪れる人気店。毎日9時〜21時まで営業。

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