JCC 村越 晃
2016年、日系企業のタイ進出動向 「タイの産業構造高度化に日系企業も貢献したい」

AEC発足で幕が開けた2016年。昨年、不景気と言われ続けたタイ経済は、今年一体どうなるのか?円安基調が続く中、日系企業の進出は増加するのだろうか?また、AECはタイ経済に恩恵をもたらすのか?今年の経済動向を占うべく、盤谷日本人商工会議所(JCC)のトップ、村越会頭に話を聞いた。

 

ー2015年は、不景気と言われ、経済としてはネガティブなニュースが続きました。2016年の日系企業の進出はどうなると考えますか

まず15年のタイ経済は後半になり、景況感などのいくつかの数字で改善が見られています。ただ、景気が本格的に回復してきたかというと、明確な実績値や指標として現れていないのが実情。政府はGDPが回復した点を強調していますが、民間企業の見方から言うと、ボトムタッチはしているが、明確に底を打ったと言える状況ではないと思っています。
一方、日本からタイへの投資が40年ぶりに3位になったとの報道がありました。しかし、これはあくまでも1月〜8月の数字。11月27日に東京で行われたタイ投資委員会(BOI)のセミナーの際に、ヒランヤー長官も強調していましたが、1月〜10月の数字では、再び日本がトップに返り咲いています。投資件数でも依然として日本が首位。あくまで第三国との比較においては、日本からタイへの直接投資が落ち込んでいると考えていません。

ー今後も日系企業の進出動向は鈍化しないということでしょうか
昨年はタイに限らず、北米を除いて、世界全体の景気がよかったとは言えない年だったと思います。東南アジアも一部の国を除いては例外ではなかったと理解しています。この様な現状を考慮する必要があるでしょうね。また、日系企業に関して言えば、円安の進行により海外投資が見直されている側面もあるかと思います。
ただし、今年は、タイへの投資は昨年と比べてもネガティブな要因は少ないと思っています。

 

ーわかりました。では、現在のJCCの会員数の推移状況を教えてください

毎月平均して7社ほど増えています。昨年12月末の段階で会員数は1688社。毎月10〜13社程度の入会申請があります。製造業は3割程度で、非製造業のうちコンサルティング、地方銀行、工場関連のメンテナンス事業など製造業に付随する業種の入会が多くなっています。事業規模から見ると、製造業の方が大きいですが、企業数では既に非製造業が過半数を上回っています。毎月7社程度が増え、年間で100社ほどの増加が続いています。この傾向はここ数年、基本的に変わりませんね。

 

ークラスター制度(特定の事業を優遇する政策)により、進出企業に影響はあると思いますか

基本的には変わらないか、もしくはプラスに働くと考えています。今回のクラスター型の恩典で、タイ政府が考えていることは産業構造の高度化だと理解しています。例えば自動車産業でいうと、組み立てだけではなく、R&D(研究開発)やデザインも含めた製品の付加価値を高めようとしています。IT関連や加工食品業の中でも、特に高度な技術が必要なものなど、付加価値の高い産業に移行しようとしているのです。日系企業は、既にその変化に応えようとシフトチェンジしています。製造設備投資を行い、〝単純労働〟を前提とした安価な賃金で輸出を前提に事業を推進するという形では、タイでは限界があります。
BOIの制度変更は、産業構造を高度化し、近隣諸国に対して差別化を図っていくというタイの長期的な戦略にも合致した政策と、理解すべきだと考えています。

 

ーAEC発足は日系企業の進出の追い風になりますか

国境を越えた地域経済統合という面では、EUのような形を想像するかもしれませんが、EUの統合の歴史は1950年代から始まっており、その後50年かけ、EEC、ECを経て、通貨統合を含むEUができたのです。しかも、彼らのベースには宗教、価値観や政治体制という共通基盤がありました。その観点で考えれば、AECを語るのはまだ早すぎます。

 

ーしばらく静観が必要だと

メディアでは、「AECが12月31日発足」と大きく報道され、急に大市場が誕生するかのごとく報道されています。一方、AECは関税制度も通貨も違うので、すぐに影響は出ないという意見もあります。おそらくどちらも正しく、またどちらも正しくないと思います。AECそのものは20〜30年経ってから評価されるべきなのです。長いレンジで見て、後から振り返ると2015年12月31日が「大きな転換点だったな」となるものだと思います。

 

ー円安の影響はどうでしょうか

一般論として円の価値が下がるので、3、4年前に比べて海外投資が円ベースで割高になるのは事実です。短期的にはマイナスファクターに働くのは事実でしょう。しかしながら、為替はどう変化していくかは予測できないものです。日本企業が事業投資、あるいは固定資産投資を行う際に、足元の為替だけを前提として事業計画を作ることはないと思います。一方、日本は人口減少が始まり市場が減少する上に、潤沢な労働力を確保することが難しくなるという側面もあります。投資活動は長期的に、かつ全体を見ながら判断していくので、円安だけが投資判断の要素とはならないと思っています。

 

ー15年のタイ政府への要望など、JCC会員の声を聞かせてください

JCCでは半年に一度、景気動向調査を行っており、会員企業に景況感、投資見込み、経営上の課題、タイ政府への要望などさまざまなことをヒアリングしています。15年上期調査でのタイ政府への要望の中で多かったのは、「景気対策の推進」や「政情の安定・安全の確保」、「関税や通関に関わる制度や運用の改善」などです。タイにおける「経営上の問題点」に関する質問では、日系企業同士も含めた「他社との競争の激化」が最も多く、次いで、「マネージャーの人材不足」、「総人件費の上昇」などが挙げられています。JCCは、この調査結果をタイ政府の閣僚や政府関係機関にしっかりとインプットしつつ、日タイ経済連携協定(JTEPA)の議論にも積極的にコミットして、タイ政府と議論を行い、投資家にとってより活動しやすいビジネス環境の整備に努めています。

 

ータイ政府が必死に外資の誘致を行っていますが、どう評価しますか

タイ政府の短期的な施策としては、足元の景気刺激策があります。タイのGDPを見ると、約半分が個人消費、20%弱が政府支出、25%が総資本形成となり、残りの部分が純輸出という構成になっています。現状では、タイ経済にとって最大の要素である個人消費が伸びていない状況ですので、タイ政府はインフラ整備等の政府支出を積極的に取り組んでいます。
タイの現政権は、長期的な視点で投資誘致を行っているように思えます。「付加価値が高い産業」、あるいは「今後伸びていく産業」に対する投資を奨励している、ということかと思います。確かに最大で15年の法人税免除というのは大盤振る舞いのようにも見えますが、産業構造の改革を本気で考えていると理解してよいかと思います。

 

ー産業高度化以外にタイが生き残るのは厳しいと

タイは人口約6500万人の国で、人口ボーナス期は終了しつつあり、タイ国内市場のみを基盤に成長していくのは限界があります。一方で、先ほど申し上げた通り、安価な労働力に依拠した加工貿易で生き残るのも限界があります。ミャンマーが民主化し、カンボジアやベトナムが経済発展を目指していく中で、タイの優位性は、相対的に失われていくと思われます。従って、タイが今後も地域の中心的な国として生き残るためには、他国との差別化を早期に図ると共に、周辺国への産業移転を通じて、相互補完関係を確立することが欠かせないと思います。この観点から、タイは自ら産業の高度化に挑まなければならない国だと思いますし、それを実現することにより初めてAECあるいはGMS(Great Mekong Sub-Region)が一つの経済共同体としての機能を発揮し、全世界的にも重要なエリアとして認識されるようになると思います。私もタイがそういう国であってほしいと考えています。

 

村越晃

東京大学法学部を卒業後、1982年三菱商事に入社。ブラジル駐在を経て、資材関連に従事する。2012年同社の執行役員、14年泰国三菱商事会社社長兼MC商事会社社長に就任。15年盤谷日本人商工会議所の会頭となる

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