片手のサッカー選手が示す “ハンディキャップの壊し方”

先天的な左手部欠損という障がいを持ちながら、プロサッカー選手として
海外でプレー。現在は、聾(ろう)学校を含めたタイに住む子どもたちに向け、サッカースクールを開く相原ユタカさん。有限実行の彼が、新たに目指したゴールとは。

静かなコートにキュッキュと響く、靴と床がこすれる音。そこには、アイコンタクトと身振り手振りでコミュニケーションをとる聴覚障がい(聾)の子どもたち。それを横で見守るのが、ユタカさんです。

単身で海外へ乗り込み、3年のプロ生活を経た2009年、サッカースクール「Yutaka Football Academy」開校のためタイに移住。自身の経験をもとに、組織や戦術といった型にはまらない、自由な発想で“楽しく遊べるサッカー”を発信し、その2年後、聾学校の門を叩くのでした。

「日本にいた頃から、聾学校の子どもたちにサッカーを教えたいと手話を勉強していたんです。けど、日本の学校では外部の人間が校内に入るのは困難で。それなら、馴染みのあるタイで始めようと思って」。当初は空き時間や放課後を使ったスクールの時間が、今では子どもたちのためになるからと授業の時間に呼んでもらうまでに。「協力的で、ありがたいよね」とユタカさんは感謝を口にします。

ではなぜ、聾者なのか? そんな疑問をぶつけると、「プロサッカー選手を育てたかった」とひと言。「自分の殻にこもりがちな障がい者たちに、プロとしてサッカーを続けて来た自分の姿を見せることで、前向きな気持ちになってもらいたかった。口で言うより、見せるのが1番説得力があるでしょ。それは、僕にしかできないことだから」。できるかできないかじゃなく、やるかやらないか。ユタカさんはそうして、自らの道を切り拓いて来ました。
バンセンにある「チョンブリー聾学校」で、サッカーを一緒に楽しむ子どもたちと

来年から、聾者を含めた
フットサルチームが本格始動

聾学校でのサッカースクールはタイが初めてでありながら、特段構えることはなかったというユタカさん。「日本語とタイ語で手話は少し違うけど、それは大きな問題じゃない。大事なのは、伝えたいという気持ち」。ユタカさんが子どもたちに伝えたいのは、まずサッカーを楽しむこと。やらされるのではなく、思う存分楽しんでほしい。自分で考えて、解決する力を身に付けてほしいのだと笑います。障がいについてもそう。周りの偏見で、夢や目標を諦める必要はない。できることを見つけて、臆せず挑戦すればいい。そんなメッセージが、その背中から伝わってきます。

2013年には「外の世界を知って、たくさんの選択肢を持ってほしい」と、日本の聾学校と連携してタイの子どもたちを日本に引率。以降は恒例行事となり、さらには企業との連動イベントなど、新しい試みを実現しています。

そんなユタカさんの新たな挑戦の場は、プロのフットサルリーグ。現在、聾者と健常者混合のフットサルチーム結成に向けて、メンバーを選考中なのだそう。「サッカー選手になりたいという聾の人たちのためにも、受け入れ先になるチームを作ろうと、1年前から動き出しました。僕も、オーナー兼選手として参加するよ。課題は山積みだけど、やるしかない」。その瞳には、強い決意が表れています。

第一にクリアしなければいけないのは、プロリーグ参戦の資格獲得。2部で構成されるリーグに加わるためには、2部の最下位に勝つことが最低条件です。

「まずは、2部リーグ参戦。1部リーグ昇格は…3年ほどかかるかな。戦力面も運営面も、すぐにうまくいくとは思ってない。とにかく結果を出して、認めてもらうしかない」。かわいそうと思われて助けてもらうか、かっこいいと思われて応援してもらうか   。ユタカさんは後者として、サッカー選手として、挑み続けます。


PROFILE
相原 ユタカ
Yutaka Aihara
1979年、神奈川県出身。2003年、プロサッカー選手を目指しタイへ。ストリートサッカーを経てタイリーグでプロデビュー。以降、バングラデシュ、ウガンダ(アフリカ)で日本人初のプロリーガーとして活躍。06年〜日本でサッカースクールコーチのキャリアをスタート。09年、タイで「Yutaka Football Academy」設立。11年〜聾学校でのレッスン開始。現在、バンコクとシラチャの2拠点で活動。


Yutaka Football Academy
障がい者が活躍するプロチーム
結成に向けて活動中!
子どもたちへのサッカー指導と並行して、今までにない、障がい者が活躍するプロチームを結成します。現在、応援して頂けるスポンサーを募集中です。詳細は下記までお問い合わせください。
Telephone: 085-158-4073
Website:www.yutaka-fa.com
Facebook:Yutaka Football Academy


編集部より
笑い混じりの取材終盤、ふと「やっぱりサッカーが好きなんだよね。今39歳だけど、もっと上手くなりたいって思うもん」と呟いたユタカさん。少年時代から変わらないその想いが、すべての原動力です(山形)

取材・文 山形 美郷


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