滞在地での毎日が忙しくても、気になるのが帰国後の我が子の学校生活。「日本でも楽しんでもらいたい」という切なる願いを実現するため、保護者が帰国前後にできることとは何でしょうか。そこで、帰国子女の教育サポートに携わる海外子女教育振興財団の三井知之氏と、臨床心理士の中里文子氏にお話を伺いました。
Action1 帰国前 子どもが楽しめる学校を探すため情報を賢く収集する
おさえておきたい3つの収集方法
1. メディア確認
「お子さんの学校選択の対象になっている学校のHPに定期的にアクセスして、情報を常にアップデートしておくようにしましょう。また、該当校のオンライン学校説明会が開催されるのであれば、逃す手はありません」(三井氏)
2. 見に行く
「昨年度は軒並みNGだった学校公開や学校見学を、今年度はOKとする小中学校・高校も。児童・生徒の活動が見られるとよいですが、そうでなくても、教室の様子や掲示物、進路指導室などを確認して、雰囲気の把握を」(三井氏)
3. 人と話す
「先に日本に帰国した友人家族、帰国生入試を熟知している塾の先生など、できるだけ様々な立場の人と話すのが有益です。ポジティブな情報とネガティブな情報の両方を聞き出すようにすると、よい判断材料になります」(三井氏)
今、注目したいのはオンライン学校説明会
海外滞在中からできて、帰国後の子どもの日本での学校生活を大きく左右するアクションのファーストステップとなるのが「情報収集」です。
主な収集方法は上記の3つですが、帰国子女の教育サポートに携わる海外子女教育振興財団の三井氏は、海外と日本の行き来が難しい昨今においては特に「メディア」からの情報収集に重きを置くことをすすめています。
「公立の学校に通う場合は従来通り口コミが有効ですが、受験を考えている場合は、Zoomなどを介したオンラインでの学校説明会の利用がベストです。近年では帰国生を受け入れている多くの国立小や公立中高一貫校、私立校が行っています」(三井氏)
先生や在校生の話を聞けたり、学校生活の様子を映像で見られたり、帰国生向けの入試の詳細を得られたり、質疑応答の時間を活用できたりと、その内容は対面での学校説明会に近いです。
「複数校が集まって複数日程で共同開催している場合は、各校の違いを効率的に見比べられます」(三井氏)
現在はアジア時間やアメリカ時間を基準とした開催が多いですが、今後はヨーロッパ時間に合わせた開催も各所で検討されています。参加校や日程、参加方法などは、各学校や主催団体のHPでご確認を。
Action2 帰国前 入学・編入学に向けて子どもの気持ちを整えていく
特に大事にしたい3つの気持ち
1. 不安感
「帰国前の子どもは不安でいっぱい。これは保護者も同じでしょうが、大人は一つひとつ不安なポイントをクリアにしていけば、それなりの見通しを立てられるはずです。その上でどっしりと構えて見せましょう」(中里氏)
2. 自尊心
「不安感が大きくなると自己否定の感情が出てくることも。入学や編入学を控える子どもには『自己が認められる居心地のよい場所』の保険として、学校外に習い事等を探しておいてあげるとよいかもしれません」(中里氏)
3. 喪失感
「今の学校に通えなくなることは子どもにとって大きな喪失体験。保護者も同時に喪失体験をするので大変ですが、子どもが悲しんでいたら否定せず、話をよく聞き、感情をただ『そうだよね』と肯定的に受け止めてください」(中里氏)
帰国後のショックを小さくするためにできることは?
Action1で通いたい学校が決まり、入学・編入学に向けた勉強や試験をクリアしたら、次は実際に入学・編入学するために子どもの気持ちを整えていきます。ここで大切なのは、帰国後のカルチャーショックをおさえてあげること。三井氏はショックをおさえる手段に、「現地と日本の違いを親子で確認すること」を挙げます(詳しくは「帰国前にやっておきたいことリスト」参照)。この際、海外生活を経た子どもにとっては日本の文化が異文化になるケースもありうることを念頭に置き、「困ったときには友だちや先生に助けを求めて大丈夫」ということをしっかり伝えるのも大事だとのこと。
心理面で尊重したいことに臨床心理士の中里氏が挙げるのは、不安感、自尊心、喪失感。海外から日本に帰る子どもなら誰しも味わうだろうこの3つは、同じときに帰国を経験する保護者だからこそよく理解して寄り添えるものでしょう。
「表面上は平気そうに見えたとしても、水面下ではこうした気持ちと戦っているのだと知っておくことで、子どもが弱気な面を見せたとき、どんなに忙しくても話を聞こうという気持ちになれるはず。保護者が一番の味方であること。これが子どもの心を整えるための大切なカギになります」(中里氏)
国が違うと教育制度も異なるので、細かい学習内容は変わってきます。日本の学校に通うと、「学習内容そのものが異なる」「学習する学年が異なるので未習だった」「現地校では学習しない内容がある」といった、海外校とは学習内容やカリキュラムが違うため戸惑うケースもあるでしょう。こういった状況が続くと、子どもの学習に対するやる気が失われ、学校に行くこと自体を嫌がったりすることもあります。そうならないためにも、子どもへのフォローが大切です。
お話を伺った方
海外子女教育振興財団 三井知之(みつい・ともゆき)氏
同財団の教育相談員として、帰国子女とその家族をサポート。海外の日本人学校教諭や校長、東京都教育庁の課務担当副参事、港区小学校校長、杉並区小学校統括校長などを歴任。
臨床心理士 中里文子(なかざと・あやこ)氏
メンタルヘルス・ケアの専門家、AGカウンセリングオフィスの代表。教育委員会や児童相談所での子育て相談に加えて、一般企業の駐在員とその家族のためのカウンセリングも行う。