情熱酒場 寅次郎
〜にわか雨が降る街で〜【美食倶楽部】

ねっとりとした湿気に混ざり、沈丁花に似た花の香りがやんわりと鼻腔をくすぐるバンコクの裏通り。
所々に立つ木々はコンクリートの塊に負けることなく南国特有の生命感にあふれ、街はまるで何か一冊の本に閉じ込められたように独特な余韻を奏でている。

そんなスクンビットのソイ39。その通りの中ほどに「寅次郎」がある。
酒場は佇まいが大切だというのが持論だが、この店の風情が不思議と好きで、とくに店の敷地全体の〝気配”のようなものに惹かれている。

いったい酒場に何を期待しているんだ？と聞かれてしまいそうだが、ここにはどうやら酒徒の好奇心を満たすようなものが自然と醸し出されている感じだ。
とくに南国感を押し出しているわけでもないのだが、なぜか蝉しぐれが似合うような妙な趣もある。
つまり、南国の都市・バンコクにありながらも、なんとなく「日本の夏」を感じさせるのが、この寅次郎ならではの佇まいなのだと思う。

日本の夏といえば、納涼という言葉があるが、ひらたく言ってしまえばそれは夕涼みをすること。
明治以前には旧暦の5月28日から8月28日までの3カ月間にかけて行われていた年中行事だという。

その流れを汲みつつ、暑い時期にとにかく人が集まって「みんなで楽しく涼もう」というのが今でいう納涼祭だ。
それをこの街でのことに置き換えるなら、一年中暑いこのバンコクで、あえて夏を感じながら涼を取るということ。
そんな酔狂なことが似合うのも、これまた寅次郎なのだ。

何かを飲み、何かを食べ、何かを語る。
気づいた時には少し酔っていて、なんだか魔法にかかったような心地よさに包まれる。
それもまた納涼なのだ。

今夜もにわか雨が降る街で、寅次郎の夏は終わらない。

「情熱酒場 寅次郎　スクンビット39店」詳細情報

「情熱酒場 寅次郎　スクンビット26 日本街店」詳細情報