「脱農薬」で揺れる市場

わずか1カ月で「農薬禁止」を撤回した政府に、再批判

国民の40%が農業に従事し、米やサトウキビといった農産物の世界的な輸出国であるタイ。

タイ政府は2003年より官民一体のプロジェクト「世界の台所」を掲げ、食品の品質や衛生管理などの普及を啓発。

輸出や食品関連市場の拡大を推進している。

その一方で、世界的に削減・禁止の傾向が進む農薬の大量消費国という側面も持ち合わせる。

こうした背景から政府は昨年10月、除草剤として一般に普及する「パラコート」「グリホサート」と、殺虫作用がある「クロルピリホス」の3種の農薬を使用禁止とする方針を決定した。

ところが、生産コストの増加などを懸念する国内農家や関連団体の猛反対に合い、わずか1カ月ばかりで新法の施行を断念。

「グリホサート」は全面禁止を見送った上で限定的な制限を行い、残りの2種については使用禁止とするものの、今年6月1日まで規制を延期するとした。

除草剤「グリホサート」を巡っては、世界的にも議論の真っ只中にある。

日本をはじめ世界約160カ国で使用が認められ、タイではサトウキビ畑や果樹栽培などで使われている。

しかし、15年にWHOの専門機関が発がん性物質に分類したことから規制を呼びかける声が増加。

仏や豪州といった食の安全に対する意識が高い国では同薬剤を有効成分とする商品の販売を禁止する動きが相次いでいるが、実証には至っていないようだ。

ここタイにおいても前述の禁止法騒動以来、3種の農薬の輸入量や使用率は大幅に低下している。

しかし、タイ農業ビジネス協会のウィーラウット会長によると、このまま規制に突入した場合、国産食品の価格高騰は免れないという。

また、大豆・小麦製品などの輸入が困難になるため、ペットや畜産業界など各市場にも影響が及ぶと見られている。

もちろん、安全性に問題があると明らかになった場合には排除されてしかるべきだが、十分な対応がなされぬままの見切り発車では世間の混乱を招くばかり。

引き続き、政府の動向を注視していきたい。

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